□4.この場所で
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思えば、

ほんとに、たまたまだったんだ。








お前が、そこにいたのも。



俺が、お前を見つけたのも。



人は、それを運命と…………
こんな言葉が頭に浮かび、虫唾が走る。




綺麗事はとことん嫌いだ。




面倒事も嫌いだ。





それに、













あんなに


酷く美しい絵も、嫌いだ。


















――――――――――――







今から4年ほど前になるのだろうか。






ゴォン…………………ゴォン………………………





鐘の音が地面を震わせる。

無限に広がる青空を背に、音を轟かせる鐘は一枚の絵のようだった。






重苦しい音をたてて正門がゆっくりと開く。






どっ、と街が一気に賑やかになる。


「調査兵団が帰ってきたぞ〜!」



この街に来るのは2度目だろうか。
1度目も、外の状況報告という同じ目的で来たことがある。


近隣の住人達が、わざわざ家を出て調査兵団の姿を人目でも見ようと、ざわめいている。


エルヴィンを先頭に、馬にまたがった調査兵団一行がゆっくりと正門をぬけて入ってくる。



住人達は、それぞれの人物に対しそれぞれの批評を口々に言い合い、応援や歓声の声をあげる。
皆の目は輝き、尊敬の気持ちで満ちている。




「おっなかすいたな〜あ」

兵団の服と妙にマッチしているゴーグルを身に着ける、ハンジが馬の上で大きく体を伸ばす。


住人がどんどん集まり、道が人でだんだん狭くなる。






「.......うるっせえなぁ」



調査兵団の一行の先頭近くに、リヴァイの姿があった。

眉をひそめ、明らかに不機嫌であるというのを顔に表している。




うるさいのは基本的に嫌いだ。

人ごみも嫌いだ。




「そぉ〜〜んな、お腹痛そうな顔するなよぉリヴァイ〜っ」


ドンっ、とハンジに肩を捕まれ、虫をはらうような仕草で手をどけるリヴァイ。



「....ったく、どいつもこいつもただ帰ってきただけでこんな大騒ぎか。うじゃうじゃ顔並べて気持ちわりぃんだよ」


「そう言うなって〜!みんな歓迎してで迎えてくれてんだからさあ。おっ、美人さん発見っ、ヒュ〜」




そんなハンジをよそに、フンと鼻で返事をするリヴァイ。




全体的に女には興味がない。
まわりにいるこいつらなんか俺には豚にしか見えん。




かといって女を持ったことがないわけではない。
地下街で悪事をはたらいていた時は、強い男に惹かれる猿のような女共が寄ってきた。

しかし、リヴァイは一度も寄ってくるその女達のことを女としてみたことはない。
猿か、豚か、家畜か。この程度。

汚らわしいものは嫌いだ。






俺は嫌いなものがたくさんある。


その中でも一番、一番大嫌いなのは
汚らわしい、汚いものだ。




ここら住人にいる女共は厚く顔に訳の分からん粉を塗りたぐり、唇に似合いもしない色をつけ自分が綺麗だと勘違いして男に色目を使う奴らばかりだろう。



ちなみに俺は勘違いが酷い奴も面倒だから嫌いだ。


















ある程度の距離を進むと、細い道に差し掛かった。
ここからは野次馬の数もまばらとなり、馬も安心して楽に進めるだろう。


「もう少しで本部につく。着いたらそこで各自休憩、及び食事をすませ次の支持がくるまで待機するように。」


エルヴィンの支持に従い、皆やっと休めるのか、といった疲労の顔を浮かべる。




流石のハンジも空腹のため、独り言をぼやかなくなった。

沈黙の中で馬の足音だけが淡々と聞こえる。



















細い路地を右に曲がる。

ここを道なりに進めば、目的地だろう。




野次馬もいなくなり、人通りがまったくない静かな路地にはいった。



















すると、





あるものがリヴァイの目にとまった。











思わず、息をのんだ。













一人、馬の歩みを止める。














サァァァ..........




心地よい、冷たい風がリヴァイの髪を揺らす。














「......リヴァイ?体調でも悪いのか」


いきなり立ち止まったリヴァイに気づき、エルヴィンが声をかける。




「いや.....気にするな。後で向かう、先に向かってくれ。」


「分かった。落ち着いたら来てくれ。食事は俺がお前の分を部屋に置いておく。」


「悪いな。」








目的地へと向かう調査兵団一行を見送ることもなく、リヴァイは静かに馬をおりた。






そこにあったのは、ただの一軒の家だった。


なんの変哲もない、ただの貧相なレンガ造りの家。



















だが、











家の壁に、


異常なまでに美しいスイレンの花の絵が描かれてあった。

そこだけが、違う空間のように。








吸い寄せられるように、リヴァイはそのスイレンの絵に触れる。



鳥肌がたった。

こんなに酷く美しものを、この世に生まれてからはじめてみた。

それに今触れている。






リヴァイ自身も、なぜ今このたかが壁の絵のために立ち止まっているのかも分からない。




だが、体が止まってしまった。

足が、動いてしまった。





この絵には、リヴァイを惹きつける何かがあった。













人一人いない、細い路地で





ひとり、壁のスイレンを静かに見つめる。

















思えば、ここではじめて出会ったんだ。








この、思い出の場所で。




この、スイレンで
































俺達は、出会った。










【続】

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