□6.キスと約束
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「........あ゛?」






リヴァイが部屋に入って放った第一声である。






カーテンが継ぎ合わせて縫われ、可愛らしい女の子が好きそうな柄になり

窓際に花がいけられ

布団も布を継ぎ足して作ったのか知らないが、フリルのようなカワイイデザインに生まれ変わっていた。

手に全神経が集まっているのかというほど手先が器用である。





「....ハッ、ごめんなさい面白くてつい夢中に...っ」


ハっとしたような顔で我に帰り、布団のフリルを縫う手を止めるリレイ。





「.....あのなぁ...」


確かに、この部屋を好きに使っていいといったのはリヴァイ自身であるが。


今や質素で飾り気のなかった部屋の面影は、もうとうに無くなっていた。







あれから数ヶ月たち、すっかりリレイの右手は回復し、ご覧のように針を使った裁縫など細かな作業も行えるようになった。


それも、リヴァイの気遣いや、リハビリあってのものだった。



「えへへ...でも、可愛くないですか?」


それよりなにより、リレイの表情がコロコロ変わるようになった。
この空間にも慣れてきたのだろう。

これまで数ヶ月間毎日のように朝と晩、リヴァイとリレイは一緒にこの部屋で過ごしている。


「フン....。まぁ、勝手にしろ。」


いつもどおりの素っ気無い返事を返すリヴァイ。





明るくなり、たまにリヴァイ自身を笑わせようと会話を振ってきたりと、
だんだん自分に打ち解けてくれるリレイの姿を見て、正直悪い気分はしなかった。



「あっ、リヴァイさんに見せたい物があるんです。」


「.....なんだ?」



す、とリヴァイに差し出した一枚の紙。










リヴァイは息をのんだ。





そこには、綺麗なスイレンの絵が描かれていた。



「...前、まだ私の手がうまく動かせなかった頃、
リヴァイさんが私のスイレンの絵が見たいって言ってたから、つい....」



本当に、怖いくらいにこいつは絵の才能があるなと内心で思いながら、無言でスイレンの絵を見つめる。

いや、こいつの場合才能じゃない。努力だ。





数ヶ月前、リレイは『私のことを前から知っていたんですか』と何度かリヴァイに尋ねてはいたが、
帰ってくる返事は『知らねえ』か、フンと鼻で返事をされるだけだった。


リヴァイさんのことだ、いつか時がきたら話してくれるのだろう。
今はまだその時じゃないってだけ、と思いすごしているリレイである。






「あ、あの....やっぱり、気に入らなかったですか?」

心配そうにリヴァイの顔を覗き込むリレイ。



「いや、嫌いじゃねぇ。」


内心は嬉しいのだが、それを表に出さないのがこの男である。


ぱぁっ、とリレイの顔が明るくなる。




何から何まで、全てリヴァイに世話になっているリレイとしては常に何かでお礼をしたいと考えていたのだ。

ずっと、ずっと、リヴァイが何をすれば喜ぶか、笑ってくれるか。
そればかり、考えている。


リヴァイが望むものなら何だってしよう。
望むものは何だって持ってこよう。
リヴァイに何かあったときは、何があっても自分を犠牲にしてでも助けよう。

それくらいリレイはこの男を信用し、信頼していた。


できるだけ、彼のそばにいたい。


いつしか、そう思うようになっていた。












「.....おいお前。」


「はい?」



「お前、何か食べたな?」






「さっき昨日の夜食欲がなくて、食べれなかったパンを少し...でも、どうして分かるんですか?」












音を立てずに、

静かにリヴァイの指がリレイの唇に触れた。







「えっ.....?」






「.....食べかすだ。餓鬼か。」







カァァァっと瞬時にリレイの顔が赤くなる。





「ごっ、ごめんなさい。」
恥ずかしい。こんな子供のような姿を見せてしまった。

顔を見せられない。思わずうつむいてしまう。




















すると、


不意にリヴァイがリレイの顔に触れた。



















「え....」





くい、とうつむいていたリレイの顔を起き上がらせるリヴァイ。





「.....下、むくなよ。」











こんなに至近距離で顔に触れられながら、リヴァイの顔を見るのははじめてだった。
本当に、綺麗に整った顔立ちだ。



どういうことなのかよく分かっていないリレイが思わず緊張で身を強張らせる。


切れ長の鋭い瞳に、リレイの呆けて赤くなった顔がうつりこむ。















「お前のその赤くなった面。嫌いじゃない。」













と、初めてリレイの前で笑った。



笑いなれていないのか、あまり優しい印象をもたない笑い顔は、

リレイにとっては嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
自分の照れて、恥ずかしがった顔を笑われたのだから。




言葉も出せずただただ顔を赤らめるリレイを見ては、またリヴァイが微笑む。














トンっと、優しくリレイを壁に押し付ける。






そして、じっとリレイの顔を覗き込むリヴァイ。







「あ....あ、あの....っ」



よく状況が理解できない。





















「.....お前から見て、俺は....どう、見える?」














いきなり、この人は何を聞くのだろうか。








「どう....って、あの、その......」

返答に困っていると、キッっと至近距離でリヴァイの目つきが険しくなる。

この人は白黒がはっきりしない事が大嫌いなのだ。




「.....顔立ちが整っていて、毎日兵士としての任務をこなして疲れているのに、
必ず私のところに来てくれて、私のことを常に気遣ってくれて...

それに、きっと.....誰よりも、優しい人だと思います。」






「......そうか。」


リヴァイはそのまま、言葉を紡がない。


私が、何か言わなければ.....。





「リヴァイさんから見て、私はどう見えますか。」





















「......俺は、」
















































ゆっくりと、



両手をリレイの顔にそえる。




































































「.....お前を、女だと思ってる。」















....静かに、二人の唇が重なった。





















リレイはいきなりの出来事に、ただ目を見開くしかない。








確かに今、目の前のリヴァイと、唇が触れ合っている。





人のまつげの生えぎわなんて見たのは初めてだった。















そのままリヴァイに身をまかせると、優しく抱き寄せられた。




ぐっ、と力強くリレイの体を自分の体に押し付け、両手で抱きしめるリヴァイ。



もちろん、唇は触れ合ったままだ。








リレイは胸がいっぱいで、頭の中が満たされて

リヴァイのことしか考えられなくなる。







キスなんて、はじめてだ。






それに、異性の誰かに抱きしめられる事だって。








「......ん、...」






息が続かなく、思わず声が漏れる。









「......苦しいか?」








リレイから唇を離し、心配そうにの顔を覗き込むリヴァイ。


こんな時にまで、私のことを気遣ってくれているのか。






「い、......いえ、、......」


唇が離れた瞬間、リレイは何故かとても残念なような、寂しいような感情が沸いた。







「.......そうか。」





そして、優しくリレイの頭に手を置く。







「......嫌じゃないか?」









一回一回の動作をリレイが嫌がっていないか、
わざわざ確認する。


せめてもの気遣いだ。

きっと彼ならば、リレイ嫌というならばすぐにやめて部屋から出て行って無かったことにもできるだろう。














目の前に、リヴァイの顔がある。





リレイだけを見つめる、リヴァイが。




















だが、リレイの体が、勝手に動いた。





気がついたときには、リヴァイの背中に手を回し、抱きしめていた。















リヴァイも静かにリレイを抱き寄せ、もう一度唇を重ねた。
















「......苦しくなったら言えよ」











ゆっくりとリヴァイの舌がリレイの舌に絡みつく。






犬のように噛み付いて見えるようなリヴァイのキスは、

激しくみえるものの、実際はとても優しいものだった。





リレイは頭の中が溶けたような錯覚に陥った。

体から、勝手に力が抜けていく。




リヴァイが何も言わずに、リレイの体を優しく支えてくれる。







「ん....っ、.....ふ、....んぅ......っ...」




舌が絡み合うたびに、キスに慣れていないリレイの口から甘い吐息が漏れる。














「…………苦しく…、ないか………?」




舌を絡ませながら、途切れ途切れにリヴァイが言う。








リレイは、思ったことを素直に言葉で言った。





「……ん…っ、…もっと、したい……………で、す………」












「……………………俺も、…っ」












また、リヴァイはリレイを強く抱きしめ、舌を絡める。











…………頭が、ボーっとする。



声が、出てしまう。








でも、声を漏らす度に
リヴァイがリレイの頭を優しく撫でてくれる。









そんな事を、二人は気が済むまで続けていたのであった。












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そろそろ、リヴァイが部屋を出ていく時間である。



ドアへ向うリヴァイを、リレイが呼び止めた。








「あ、あの………リヴァイさん」



すっ、と振り返り、リレイを見つめながら








「……………もう、さん付けも敬語もいらねえよ、リレイ。」



そう、リヴァイは伝えた。




はじめてリヴァイが私のことを名前で呼んでくれた気がする。







「………分かった。ねぇ、リヴァイ」



「なんだ。」



「今日の夜までに、もう一枚スイレンの絵を完成させておくから……

だから、夜もまたいつもみたいに、会いにきてくれる………?」





リヴァイの服の裾を掴みながら、リレイが呟くようにそう言った。














「…………気が、むいたらな」



そう言って、
二人はもう一度確かめ合うように

唇を重ねた。









リレイはリヴァイの姿が見えなくなるまで見送った。


見えなくなる直前リヴァイは振り返り、リレイの顔を見て、静かに笑った。
遠くからでも、リレイには分かったのだ。











私達は、今日は本当にキスだけで終わった。

その先のことをしたわけではない。




だが、リレイの中はリヴァイで埋め尽くされていた。


とても、幸せな気分だった。













「よし、絵を完成させよう。」












これが出来あがったら、リヴァイはどのように喜んでくれるだろうか?










リヴァイは、笑ってくれるだろうか。









ありがとう、といってキスをしてくれるのだろうか。












考えただけでも、顔が赤くなってしまう。

















-----はやく、会いたいなぁ…………。






そう思いながら、リレイは絵を完成させるべく、作業に取り掛かった。



























強く、強くリヴァイのことを想いながら。








リヴァイは、必ず

来てくれる。










































































だが、








その夜、リヴァイが部屋に来ることは無かった。


















その次の日も











リヴァイが

リレイのいる部屋に、

来ることは無かった。











【続】

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