□7.戦う覚悟だ
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「.....よっし、できたっ!」

出来上がったスイレンの花の絵を光に透かして見ながら、満足げな表情を浮かべるリレイ。


それなりに、上手くできた気がする。
前に、リヴァイにあげた絵よりももっと出来のいいものが出来上がった。


「きっと、喜んでくれるだろうなぁ....。」


頭をなでてくれるのだろうか。

褒めてくれるのだろうか。

抱きしめてくれるのだろうか。

考えただけで、ベットの上で足がバタついてしまう。



「はやく、

来てくれないかなぁ....」
































夜。



リヴァイがいつも部屋にくる時間になった。

壁に立て掛けてある時計の針をじっ、と見つめる。




やっと、会える.....。


そう思うと嬉しくて嬉しくて、ただただリヴァイが入ってくるであろうドアを見つめていた。




























それから、
一時間が 過ぎた。



訓練での指導に手こずって時間がかかっているとか、そういう用事だろう。

こういうこともたまにはあるだろう。


きっと、あと少しで部屋に入ってきて

頭をなでて、

抱きしめて、

キスしてくれる。





























ふと気がつくと
窓から覗く外の風景が明るかった。
鳥の声が、リレイに朝を知らせる。



朝日が部屋に差し込み、リレイの体をほんのりと温める。



結局、
リヴァイが部屋を訪れることは無かった。








------きっと、外せない用事があったんだ。

疲れて、いるんだ。

一睡もしていなかったリレイの体は、やわらかい朝日の光に照らされながら、
ベットに倒れるように寝そべり

胸の痛みと瞼に熱を感じながら
一日ぶりの眠りについた。










































ようやく目覚めても
部屋にリヴァイの姿は無かった。










飼い主を待ち続ける犬のように、リレイはリヴァイを待ち続けた。













胸にナイフが突き刺さっているようだった。

愛しくて愛しくてたまらない。






また、微笑んでもらいたい。

最後に会った日の去り際に見せた、リヴァイの顔が頭に浮かぶ。




また、抱きしめて欲しい。

あの優しく抱きしめてくれた感触が
あのリヴァイの服越しの体温が
体から離れない。




またキスだってしたい。

愛してる、と
言いたい。






ぼろぼろとあふれ出る涙で顔がグチャグチャになっていた。

今鏡を見たら私の顔は酷いことになっているだろう。








......こんな顔、リヴァイに見られたらまた馬鹿にされちゃうな。








「......えへへ...っ」



自分はこんなにも泣けるのかというほど
涙がどんどん零れて来る。















リレイは、ずっと待ち続けた。



愛している人の帰りを待ちながら。












「愛して.....るんだよ、...。」

















だが、その日の夜も

リヴァイが
リレイの部屋を訪れることはなかった。







空っぽな心と痛みと寂しさが
睡魔を呼び、またリレイは深い眠りについた。




















































































「.......リレイ。」





.....誰だろう。



まだ、私は眠い....のに。
















「おい、どんな面してんだテメェ」








え、.......?








ゆっくりと目を開けると、

















ずっと、ずっと



会いたかった人が、目の前にいた。








いつもどうり小馬鹿にしたような笑みを浮かべて
リヴァイは、ベットで眠るリレイの顔を覗き込んでいた。













空っぽだった胸の中が一瞬で満たされた。

会いたくて会いたくて、たまらなかった。







また、涙が頬をつたった。















「......帰ってくるの

遅いよ、リヴァイ」











泣いて顔が真っ赤になったリレイを

リヴァイが優しく、抱きしめた。





リヴァイの温もりが、またリレイの涙を生んだ。














「......ごめんな。」















リヴァイは優しくリレイの頭をなで

ぎゅっと、また強く抱きしめ


唇を重ねた。





短い、キスだった。








「....なにまだグズってんだよ。」




「だ、だって......っ。」





子供を慰めるように、リレイを胸で抱きしめるリヴァイ。











私、本当にこの人のこと大好きなんだなぁ。













「.....愛してる...。」


リレイがリヴァイの胸に顔を埋めながら小さな小さな声で、そう言った。



















リヴァイはリレイの肩を抱き、

まっすぐと、顔を見つめた。



































「.......ごめんな、帰ってこれなくて」









寂しそうに、リヴァイは笑った。

ひどくひどく、悲しそうな顔だった。











「リヴァイ......?」

















































































目が覚めた。



また、鳥が外で歌っている。
朝日が差し込む窓も、そのままだった。





ハっと、両の目が見開かれる。


自分の部屋を見渡した。


















部屋にリヴァイの姿は、なかった。






夢だったのだ。


リヴァイは、会いに来てなどいない。

抱きしめてくれてなどいない。




あれは、すべて夢だったのだ。









「なに、.....それ.........。」



どっと、疲労感がリレイの体を襲う。








ずっと、ずっとリヴァイのことを考えていたのだろう。

夢にまで、出てきてしまった。


夢の中で、抱きしめて、キスまでしてしまった。

愛してると、言ってしまった。





夢だと分かっていても、頭で何度も思い返してしまう。


自分があまりにも馬鹿らしく、思わず笑ってしまった。





待っていても、リヴァイが来ないのであれば

このままずっと眠ってしまいたい。

ずっと、夢を見て、

ずっとリヴァイと一緒にいたいから。








また、リレイは静かに目を閉じた。






















『そうだ、このまま寝てしまえばいいのだ』








胸がゾクッとした。



これは

リレイが巨人に襲われ、瀕死になった際に
思い浮かべた言葉と、同じだった。
























 

目が、一気に冷めた。


私は何をしていたのだろうか。



何故、リヴァイが来ないのかという理由を深く考えずに
ただ会いたいという自分の気持ちを優先してしまっていたのだろう。

こんなの、ただの前の弱い私じゃないか。

何故、また逃げようとしてしまっていまのだろう。



リヴァイと一緒に過ごしてきた数ヶ月間、
彼が数日間続けてリレイの部屋に来ない日なんて、一度も無かった。
来ないのであれば、何か一言言ってくれるのはずであろう。

任務を終えた後、常人とは比べ物にならないくらいの疲労を抱えているというのに
毎日、必ずリレイの部屋に来てくれた。

まず、ここからして今の状況はおかしかったのだ。







『……………ごめんな、帰って来れなくて』




夢の中の、リヴァイの声が頭に響く。







-----------何か、リヴァイの身にあったのだ。


そうとしか、考えられなかった。
 

ただでさえ、リヴァイが所属しているのは『調査兵団』だ。
壁の外に出て、人類の領土進出の為に心臓を捧げる英雄とも言われ崇められる存在。

いつ、命を落としたとしてもおかしくないのだ。












だが、リヴァイは死なない。



「.....私が、絶対に守るから。」



決めたんだ。


あの時、リヴァイが自分を巨人から救ってくれたときから


私は、彼のために生きようと、決めた。


手を取り合って、約束した。


あなたのために生き、死ぬ時はあなたを守って
死ぬ。



今、この瞬間も

リレイは、リヴァイのために存在する。





意識するまでもなく、足が動いた。












必ず、守る。




リヴァイが今、どのような状況にあるのかも分からない。
どこにいるのかも分からない。

巨人と戦っているのかもしれない。

けど、ここにいるだけでは状況は何も変わらない。

 動 き 出 す の だ 。







リレイは後ろを振り返らずに、自分の部屋を出た。


















会いたいと




祈ったところで、何も変わらない。







今を変えるのは


戦 う 覚 悟 だ 。








【続】

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