□8.いってきます。
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「………いいか、巨人に気づかれるまではなるべく音は立てるな。

この陣形を保ち護送団及び荷馬車を保護するのを第一と考え何か異常があればそれぞれの音響弾を投げ我々に知らせてくれ。

視界の悪い夜に決行するこの作戦に煙弾は都合が悪すぎるからだ。

我々第二部隊の目的は物資配達及び第一部隊の進行結果の確認、人員の確認、あまりに死亡者が確認される場合最悪の場合はそのまま息のある者だけを保護し即時撤退を命ずる!!!
分かったか!!!!」

『ハッッ!!!』
機械のようにいきがピッタリと合った敬礼で兵士たちは胸を張って心臓を捧げた。


……これが、私達第二部隊に命じられた任務であった。











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意識は、昼に繰り下がる。






リレイがリヴァイを探しに街に出た時には、住人たちがガヤガヤと新聞記事を見つめていたため状況をすぐ把握することが可能であった。

巷で噂されている、第一部隊について。
新聞で出回る数々の情報の中では、よい噂がたつ記事は一つとして見当たらなかった。

人類最強を誇るリヴァイ率いる先鋭軍団、及び第一部隊が人類進出のため壁外調査に出て依頼、報告の一も無しに何日間も行方知らずという前代未聞の記事の一面であった。

第一部隊の所存を調べ内地に報告をする為、予定としていなかった第二部隊を今日この夜、送り出すという。


人類最強を肩書きに持つ人物というのも荷が重すぎるものだ。
その肩書きがために
『なにが人類最強だ!実際帰ってきやしねぇじゃねえか!』
『あんなに尊敬していたのに…私達人類はもう終わりだ!!』
『リヴァイ兵士長は俺たちを見捨てて一人で逃げたんじゃねぇのか!?!?』

口々と自分の意志意見ばかりを通す住人達にリレイは怒りを抑えることができなかった。
握りしめられた拳には血が滲んだ。





いつも、守ってもらっているのはお前たちだろう。

そのために命を落としてきた人たちが、何人いるか知っているのか。

そんなことを言う、お前たちのために汗を流し血を流し、時には涙を流し

自分を犠牲にしてきた人達の気持ちを、理解しているのか。






我慢が、ならなかった。















………………………ガッッ





「…………ッッ、!?」



突然投げられた石が、男を襲った。







「違う…………リヴァイは、逃げたりなんかしない!!!」
 









リレイが、男に石を投げつけたのだ。

怒り憎しみを込めた目でリレイは男を睨みつけた。

リヴァイのことを、尻尾を巻いて逃げたとほざいていた男を。





「なに、すんだテメェ………ッッ!!!!」
 








容赦なく男はリレイに掴みかかり、頬を怒り任せに殴った。





力もない少女の身は宙を舞って地面に崩れ落ちる。






周りの野次馬達がなんだなんだと、騒ぎ立てながらリレイとその男をかこむ。




「……フンッ、所詮男にはかなわない女のくせにな!
何がリヴァイは逃げたりなんかしないだ!!!

実際帰ってきてねえじゃねえか!!!」









笑い叫びながら、男は腹をかかえた。















殴られた頬は腫れ、口の中が切れて、血が流れた。

殴られた衝撃で、脳味噌が揺れているような感触もする。

うまく、焦点も合わない。









それでも、リレイは立ち上がった。


















よろめく、両の足で













しっかりと、地面を踏みしめ、








立ち上がった。














「……………!?」



男は驚き、笑うのを忘れて少女を見た。

















「彼は………………リヴァイは、
私達を見捨てて、一人で逃げるような人ではありません。




見ず知らずの怪我人も見捨てられず、怪我がなおるまで毎日見に来るような、そんな繊細な人です……。





誰よりも人のことを考え、自分を犠牲にし、
誰よりも一番傷ついている人です。






そこまで頑張っている彼をどうして、


どうして罪人呼ばわりができるんでしょうか。

あなたたちがどんどん餌を食べて肥えている間に彼は血と汗を流して心に大きな傷を負い生きてきたんですよ。

この…………………」





















『何も知らない家畜共が!!!!!!!』

























大きくはなったリレイの声は、広場全体に大きく響き渡った。






































呆気にとられていた男も我に返り、また怒りを滲ませた顔でリレイに襲いかかろうとしたが
騒ぎを聞きつけた憲兵団の男におさえられ、騒ぎはひとまず収まったのであった。


























「君…………顔の傷、大丈夫かい?」


騒ぎを沈めに来た憲兵団の男に消毒やら何やら手当てをされながらリレイは、はい、と小さく頷いた。


憲兵団の男は応急措置をするため、
救急道具が置いてある小さな兵士舎にリレイを連れ出した。

騒ぎの発端となった少女をこのまま街に置いておくのも尺だと思ったのもあるだろう。

周りでは、今夜にも出発するであろう第二部隊の兵士たちが着々と装置の手入れなどをしている。




「正直……君には驚いたよ。」

リレイの頬を水に濡れた布で冷やしながら、㊚男がつぶやいた。


「何故、ですか?」

「今………憲兵団もそうだけど、そう、皆だ。みんな腐ってやがる。
調査兵団の奴らだって皆そうだ。
そんな中で、君みたいに悪いものを悪いとはっきり言って正せる存在は今や無に等しいくらいなんだよ…。
見てみろ、第二部隊に送られる奴らの顔を。」










ふと、リレイはあたりを見渡した。



 

ただ、平然と器具の最終調整を行なっているように見えたが、





























一人ひとりの表情は

絶望さながらのものであった。

































「………………………」










リレイは驚きのあまり声も出なかった。


















いつも、任務へ向かうリヴァイの顔をずっと見てきたから。

あの人はいつだって、恐怖の色さえ見せたことなんか一度だって無かったから。



今、目の前に見えるこの状況が信じられなかった。





























泣きながら器具を調整している者だっている。










嫌だ、行きたくないという唸り声さえ聞こえてくる。














目に光が灯っている者など、一人も見当たらなかった。









 
















その様子を眺めながら、男は大きなため息をついた。



「…まあ、人類最強の言われを持つ人物が帰ってきてないんだ。どんな恐ろしい任務なのかってみんなおどろおどろしてるんだろう…。
いや、しかし俺は兵士として許せないがな………
絶対、俺が全てを正してやる……ッ」






悔しそうな表情を浮かべながらリレイと供に生気の無い兵士達をみつめる。

今や、彼のような考え方の人のほうがすくないのであろう。










だが、リレイはそんな彼等を見て、ひとつ思いついたことがあった。









「…………そういえば、あなたの名前は何と言うのですか?」


「あぁ、俺か?俺は、マルロだ。」








それは、このオカッパ頭の真面目なマルロと別れてから、決行することにしよう。












































マルロと別れたリレイは、彼が居ないのを見計らい、また兵士舎へと足を運び
一番様子が錯乱し放心状態な、第二部隊に配属されている女を一人人影の無い路地へと連れ出した。
















「…………………あなた。」



「…………ヒッッ!!」







リレイの呼びかけにすら怯えるこの女は、
もう第二部隊として数時間後には自分は死ぬのかもしれないという恐怖心に負け、もう自我を保つことすらできていなかった。














だから、リレイは目をつけたのだ。






































「今すぐ、その着ている調査兵団の制服を脱ぎなさい。



私があなたの変わりに、第二部隊として出陣します。」

































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「分かったか!!!!」

『ハッ!!!!!』




胸を張って敬礼する第二部隊の中には、調査兵団の服を身にまとうリレイの姿があった。

夜に決行する作戦のため、薄暗くなった視界に周りにはリレイが紛れ込んでいるなど気づく者は誰一人として存在しなかった。








正直この立体機動装置の使い方なんて分かりやしない。

分かるのは、手短に教えてもらったこの腰に刺さっている刃を取っ手に取り付け、あとは自分の力で切るということぐらいだ。
















それでも、私は行く。












































あなたは、死んでなんかいない。










絶対に、生きている。



















あなたを、守るために行く。




















愛しているから、行く。










































「……………それに、私

まだリヴァイからただいまって、

言ってもらってないんだよ。」



『『『第二部隊、出陣ッッッ!!!!!』』』










轟く鐘の音色。



走り出す馬の足音。




舞う、砂埃。
























ただ、少し不器用だけど心配性な
一人の男に恋をした、



一人の少女の物語。








































「今、迎えに行くよ。



リヴァイ。」































『進めぇぇーーーッッッ!!!!!!』









第二部隊は、出陣した。







【続】

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