□12.守るから
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全てを
思い出した。

いままで、失われていた

女型の巨人の記憶を。


巨人の体の中でリレイは

全てを思い出していた。



自分の都合で

親友を食らった事実も。











胸がグチャグチャに、裂けてしまいそうだった。




この体は私であり


私じゃなかったんだ。




目の前にあるのは、血にまみれ息絶えている巨人だった。

リヴァイを守るために
守りたいという強い目的意識のもと
巨人化が発動した。



それにより、リヴァイを守ることはできたかもしれない。


しかし、それで
真実を知ったリレイの心はズタズタに傷ついた。




だって、リヴァイは

この真実を、知らない。



親友を喰らい、

元々は巨人であった私を知らない。











きっと、これを知ったら





彼は、






















--------------

「………リレイ、なのか…?」

リヴァイが焦りを募った声で、呼びかけた。


問いかけなくても
答えは分かっていた。




リヴァイには分かったのだ。



この、いつも茶色の柔らかい髪も


この落ち着く、髪の香りも


目の色も


はじめて見たようには思えなかった。



信じられないが

これが、リレイだと、

自然にわかってしまったのだ。






「……リレイ。」


もう一度名前を呼ぶと、
巨人は静かにリヴァイへと歩み寄った。


相手は巨人であるのに
恐怖心は湧いて来なかった。


「やっぱり、リレイ…なんだな。」

リレイはそっとリヴァイの側に跪くと






リヴァイの頭を指で優しく撫でた。





まるで、傷は大丈夫?と言う様に。



巨人化しても尚、リレイはリヴァイの心配をしていたのだ。




リヴァイは、胸が締め付けられるような感覚がした。

たとえ姿が巨人であっても
リレイは、リレイのままだった。


いつだってリヴァイの事を考え
心配するリレイそのままだった。

なんだか懐かしい気分になった。







「………んだよ、馬鹿にしてんのか。」


リヴァイがそういうと
巨人はビクッとして、撫でる手を背中へとひっこめた。


リレイがいかにもやりそうな動作だった。

懐かしくて、人間のリレイがそうやっている様子を頭で思い浮かべると

可愛らしくもあり、思わず笑みがこぼれた。




「……バァカ。……別に嫌じゃねえよ。」


リレイの顔を見上げながらボソっと呟いた言葉は

愛しい、この目の前のリレイに向けた言葉だった。










少し、嬉しそうに


リレイはまた、リヴァイに手を伸ばした。





































ザンッッッ



何かが、擦り切れる音。





リヴァイの目の前に、


血飛沫が舞った。











「……………………あ、…?」

















リレイの指が綺麗に削げ



前方へと飛び散った。




「リヴァイ兵長には手出しさせねえぞ!!!!!
この巨人のが!!!!!」



自由の翼が描かれたマントを揺らめかせながら

男は立体機動を屈指し
リヴァイへと伸びるリレイの手の指を
一瞬で削ぎとった。




ハンジの命令で、リヴァイの護身目的で援軍で来た男だろう。

確かに、男から見れば
巨人が動けないリヴァイへと手を伸ばし、襲っているようにしか見えなかっただろう。



「………待て、こいつは違うんだ……ッ!!」




続いて、次に立体機動で飛んできた男が

リレイの左肩を力いっぱい斬りつけた。




「やめろ!こいつは敵じゃない!」




リレイから苦痛の悲鳴が上がった。



「ハッ、なんだこのノロマな巨人。

これなら俺でも簡単に仕留められるぜ。」



男達は、次々とリレイの体を削ぎ始めた。




「こいつは違う、人間だ!
やめろ!!!」


血眼で叫ぶリヴァイの声は、男達に届かなかった。




リレイの左肩がもう一度斬りつけられ
ズシン、と大きな音をたてて左腕が地面に落ちた。





「クソが…ッ!やめろ!!!」








リレイはそれでも

一切抵抗しなかった。










目の前で、リレイが
二人の調査兵団によってどんどん斬りつけられていく。


だが、ガスも無く
大量に出血し、怪我を負ってうまく動けないリヴァイにできることなどなにもなかった。
 
目の前で愛する人が切り刻まれ傷ついていく。
これ以上に辛いことなんかなかった。





リレイの血が、顔面に飛んできた。



どんどんリレイが弱っていく。





ただただリヴァイは叫んだ。












「…!?

うわっっ!?!?」

突然、一人の男の体がが後ろから何者かによって鷲掴みにされた。



ハンジ達がいる場所から漏れてこっちまで侵入してきた巨人だった。

突然の背後をとられ、なにも為す術が無かったのだ。





「離せ、離せえ!!!」

その声も虚しく、男の体は巨人の口の中へと引きずり込まれた。

バリ、バリ、と
聞くだけで寒気が立つような音が響き渡る。






「おい、嘘だろ……

あの寄行種、何体巨人引き連れてきたんだよ……!?」



巨人の背後から、また新たな巨人が現れた。

一人残された男が悲鳴に近い声で言った。





こんな数、リヴァイの体が動きさえすれば
数分で片づけられるものを。

リヴァイは自分の無力さに唇を噛んだ。


ただ見ることしかできないのだ。





男は一旦リレイを攻撃するのをやめ、
立体機動で飛び上手く一匹のうなじを刈り取ることに成功した。

だが、一人の人間に対して巨人の数があまりに多かった。



二体目のうなじに斬りかかろうとしたところを、巨人の手に捕まってしまった。



「くそ、………このままじゃ……。」


このままでは、リヴァイも巨人の餌になる運命を辿らざる得なかった。

何もできないまま何の抵抗もせずに死ぬ。


兵士として、一番悔しくて情けない死に方だった。








リヴァイもリレイも

こんなところで

死んでしまうのだ。











































『『『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!』』』









咆哮に、地面が震えた。




あまりの音に、リヴァイもとっさに耳を塞いだ。








リレイが、突然大きな声をあげ、叫び出したのだ。

巨人達の視線が一気にリレイへと注がれる。




そのままリレイは駆け出し、調査兵団の男を掴んでいる巨人に体当たりした。


巨人の手からすり抜けた男は状況が理解できないまま、地面へと放り出された。





「ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」



再びリレイは空に向かって大きくないた。


そして、再び巨人がいるほうへ飛び出した。




そう、リレイは
巨人の手に捕まった男を助けるため

巨人の注意が全て自分へと向くようにと
わざと大きな声で吠えたのだ。


たとえ、その男が先ほどまで自分をきりつけ傷つけた相手であっても。




「……リレイ、お前………!」


そして、リレイは右手しか残っていない腕で
巨人の体を横殴りに押し倒した。

一気に砂埃が舞った。









リレイは数体の巨人を一人で相手にしていた。


しかしリレイも調査兵団のような訓練を受けていた訳ではなかった。





すぐに数体の巨人に囲まれ
リレイの茶色の長い髪が巨人に掴まれた。

そのまま引き千切るように引っ張られ、頭部の肉が剥がれた。


足を噛み付かれ、肉を食い千切ぎられ

リレイは地面に音をたてて倒れ込んだ。



もはやこれは一方的な攻撃だった。






「おい………………


嘘、………だ、ろ…………。」






巨人にグチャグチャに踏まれながらも、リレイは地面を這い

先ほど巨人の手から滑り落ち
唖然と尻餅をついていた男を掴み

リヴァイのいるところへと投げた。


「ガアァァアァアアァアアア!!!!!」


そして、男を見ながら大きな声で鳴いた。




まるで、リヴァイを連れて逃げろと言うように。





リレイは、自分を犠牲にした。


自分が巨人に食われて死んでしまったとしても

それでも、よかった。













「………リヴァイ兵長。」


「…!?
おい何すんだテメェ、離せ!!」




男はリヴァイを抱え、立体機動に手をかけた。


「……あの不可解な巨人は良くわかりません、ですがそれよりも

巨人に他の奴らが目を取られているうちに…!

今はあなたを生かすのが優先です……!!」


だが、リヴァイは抵抗し手を振りほどいた。


「駄目だ!!
俺はあいつを連れて帰……」

激しい抵抗をするリヴァイに、
男は彼の首の後ろを手刀で叩いた。


「申し訳ない、リヴァイ兵長……」


しっかり効いたのか、リヴァイの意識は途絶えた。

くたっと力が抜けた小柄な体を背負い、男は立体機動で飛び立った。















ふと、男は立体機動で宙を舞いながら

ふりかえった。







男は見た。







巨人に体中を引き千切られ




血だらけの女型の巨人の顔が





笑っているように見えた。







まるで、リヴァイが無事に逃げれたことを



安心する 恋人のように。


























-------





あぁ




背中が、食べられてる。




いたいなあ。











でも、あの男の人は


リヴァイを、ちゃんと連れて逃げてくれた。




よかった。




いつも


守ってもらってばかりだったから。





今度は私の番だよ。






あぁ、私
やっと



リヴァイを守れた。








これで、リヴァイは


帰れるんだね。









でも、そこに


私はいない。






私ここで、食べられちゃうから。




でも、いいんだ。





本当だよ。





リヴァイのために、生きていた。

約束したんだ。



『今、この瞬間から

私は、あなたのために存在する』

って


手を、とりあって

約束したから。





えへへ、

私、ちゃんと役にたてたよね。







でもね、私


リヴァイのお嫁さんになりたかったなあ

それでさ

毎朝、ぎゅってして

おはようのチュウって。



リヴァイに、抱きしめて欲しくて。





毎朝 毎晩


私の部屋に来てくれるリヴァイが

愛しくて











大好きだよ。


大好きだよ。






愛してるよ











頭が、食べられちゃった。




もうすぐ、うなじも食べられる。











あぁ、だめだ。



ごめんなさい






私、やっぱり

死にたくないよ






リヴァイと一緒にいたいよ




リヴァイの側にいたいよ





ねえ、


リヴァイ






私の真実を知っても



















それでも、








あなたは私を愛し…………































女型の巨人の意識は



そこで途絶えた。

















太陽が


雲に隠れた。









もうじき、雨が降る。




【続】

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