□13.花言葉は
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天井が 見えた。

続いて、雨の音が聞こえた。
ほんのり、雨の独特の香りが鼻につく。


「………………」

リヴァイの目が ゆっくりと開いた。

体中が包帯で巻かれていた。
少し動くだけでも激痛が走る。




「……起きたかい、リヴァイ。」

ベットの横に、ハンジが座っていた。

リヴァイは下を向きながら、無言で上半身を起こした。


「これ…食べな、リヴァイ。」

ハンジが差し出したパンを、リヴァイは思いっ切り床に叩き落とした。

ハンジは困ったような顔をして、床に落ちたパンを拾い上げる。


「…俺は、

人類最強なんかじゃない。」

俯きながら、吐き出すように言った。


リヴァイは
目の前の少女一人助け出すことすら出来なかった。
ただ眺めていることしかできなかった。

こんなでは人類最強どころか
人類最弱だろう。
自分の無力さに、自分を殺してしまいそうになる。


なにより















リレイが


いなくなってしまったんだ。





未だに、信じられない。












「あのね、リヴァイ。

君は5日間、ロクな食事も、水も取らずに
その体で巨人と戦っていたんだよ?

それに、君は腕の骨と肋骨を何本か折れてしまっていたし、足の骨にもヒビがはいっている。
血も、大量に流してしまっていた。
あんな状態で動けるならそれは人間じゃないよ。

意識があったっていうのも、常人からすればあり得ないことなんだ。

よく、生き延びてくれたと思う。」


「………フン、今日もよく喋るなクソ眼鏡。」



そう言って、リヴァイがゆっくりとベットから立ち上がった。

松葉杖を片手にドアへと歩み寄る。


「!?

リヴァイ、その体で動くなんて無茶だ、しばらくベットで休まなきゃ…」


「邪魔したら殺す」


その表情は、本気の殺意が込められたものだった。

リヴァイを止められないことは、ハンジが一番良く知っている。



「ねえリヴァイ、まだ大事な話があるんだ…!
それだけでも聞い………」

バタンッッ、と大きな音をたててリヴァイが部屋を出て行った。



ハンジが、シュンとした顔で唇を尖らせながら、またパンをもったなさそうに見つめた。















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リヴァイが、向かった先は

たくさん二人で共にすごした、思い出のある

リレイの部屋だった。



一人静かにドアを開け、中に入る。









『………おかえり、リヴァイ。』






いつも、あいつは
俺が部屋に入ってきたら
おかえりって、笑顔で言ってたな。


リヴァイは、胸が苦しくなった。



リヴァイは恥ずかし半分、ただいまと言ったことは一度も無かった。



だから


















「……ただいま、リレイ。」




誰もいない部屋で、一人

誰に向けて言ったわけでもなく、呟いた。










リレイのいない部屋。



リレイの趣味でフリフリになった布団も
なんだか、糸がほつれて見えた。


窓際に飾ってある花が、枯れていた。


リレイの趣味で女の子らしく改装された部屋も
なんだか、とても暗く、汚れて見えた。

鏡に、ホコリがついてボヤけて見える。







"  リレイがいない  "




二人でいたときは輝いて見えた内装も



それだけで、この部屋が枯れ、暗く見えた。








リヴァイは、布団の上に何かが落ちているのに気づいた。





それは、









リレイが描いた


スイレンの花の絵だった。






「あ、………………………」









"" 今日の夜までに

もう一枚スイレンの絵を完成させておくから……


だから、夜もまたいつもみたいに



会いにきてくれる………? ""








最後に、二人でこの部屋で過ごした日

リレイが言っていた言葉だった。
 
 
そのスイレンの絵は

リレイの家の壁に描かれていた絵と
同じものだった。



リレイは、一人でこの絵を描いていた。

きっと、俺のことを待っていた。

辛かっただろう。

悲しかっただろう。

それでも、俺は来ることができなかった。


そして、俺を迎えにきたリレイを

死なせてしまった。


リレイは、俺を守って

死んだ。



リヴァイの頬に、涙が伝った。

泣くなんて、初めてだった。



この部屋には
ふたりの思い出がたくさん詰まっていた。

俺達はこの場所で、

この部屋で、 
抱きしめあった。

キスをした。

愛しあった。

あいつの泣き顔も

笑った顔も

全部、全部見てきた。

愛する人を、死なせてしまった。

俺は確かに

リレイを、愛していた。



スイレンの絵に
リヴァイの涙が何粒も落ちた。  






「…クソ、クソ!」

何度も何度も、ベットを殴った。
何も変わらない。
何も、生まれない。
この感情をぶつける何かが欲しかった。


「…………?」
すると
リヴァイはベットの横の机の上にあがっている
紙の存在に気がついた。






それは、一枚の手紙だった。






「……………これは………ッ」





リヴァイは、松葉杖を放り投げ
考える間も無く、
駆け出した。



いつの間にか、
外の雨は やんでいたようだ。





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少年に
友達はいない。

別に好きでゴロツキやってる訳じゃなかった。
ただ、目つきが悪いために勝手に他の奴らがゴロツキ呼ばわりしているだけだ。
ただ、少年は人間が嫌いで 信じられなかったから、丁度良かった。

ある夜
月が明るくて寝付けなかった。
やることも無かったから 壁に沿って歩いて散歩をしていた。
すると、舗装された壁に
子供一人はギリギリすり抜けられるであろう隙間があった。
少年は、穴に潜り込んで壁外へ出た。

歩くと、小さな池にぶつかった。
誰か描いたら知らないが、花の絵が地面に描いてあった。
その絵に、少年は惹きつけられた。
はじめて、綺麗だと思った。
少年は、自分でも描けないかと指でその絵を真似て地面に花を描いてみた。

全然似ても似つかなかった。
少年は石を池に投げつけた。
波紋が広がり、池に浮かぶスイレンが酷く綺麗だった。

次の日も、少年は夜に池に行った。
自分の描いた絵のまわりに、たくさんの花の絵が描いてあった。
誰が描いたのかは分からないが、まるで地面にたくさん花が咲いているみたいだった。

少年は嬉しかった。

少年はいきいきとした目で地面に花の絵を描き、池のスイレンを見つめた。

すると、夜なのにも関わらず髪の長い巨人がゆっくりと近づいてきた。
少年は驚いた。
襲われると思い、急いで穴から内地へ戻った。

それから、少年は池には行っていない。

それ以来、思い返すこともあまり無くなっていた。
けど、月明かりに照らされて
巨人の茶色い髪が綺麗になびいていたのは少しだけ覚えていたような気がした。



長らく、忘れていた。

「………………思い出したぞ

リレイ。」


今だから分かる。
あの時、子供の時に一度あの絵に惹きつけられたからこそ
あの、家の壁に描かれたリレイの絵に自然と吸い寄せられたんだ。


外は、もう暗くなっていた。

今日は、とても月が綺麗な日だ。

リヴァイは一人、少年の頃以来の
壁外の、ある池の前に来ていた。

立体機動装置で壁を超え、一人でここへと来た。

静かに、池の前に歩み寄る。

昔と、変わっていなかった。
そのまま、綺麗なスイレンが池にいくつも浮かんでいた。

リヴァイはしゃがみこみ、花を見つめた。




そして






























" 地面に描かれた
スイレンの花の絵を指でなぞった。 "









「…………相変わらず

お前は絵だけは上手いな。」


「なぁ

…………リレイよ。」



















リヴァイは後ろからゆっくり歩み寄る

リレイを見つめた。













少年のころ、巨人が近づいてきた時のあの光景と、重なったようだった。




そう


リレイは、生きていた。。









あの、部屋に置かれていた手紙はリレイからのものであった。
手紙には、色々なことが書いてあった。

リヴァイを抱えた男が、巨人を片づけ終わったハンジに
エレンと同じ種のような巨人がいたことを報告した。

巨人好きのハンジがこれを受け流す訳が無かった。
ハンジはうなじを食べられる寸前のその巨人を首の肉ごと削ぎ取り、ギリギリでリレイを救った。
そして、そのまま壁内へ帰還した、と


ハンジには、リヴァイとの関係、自分が巨人であることを全て話したらしい。
ハンジは目を輝かせながらリレイを歓迎した。
そして、ハンジにこの手紙をリヴァイの目覚めたら読むように言ってくれと頼み
そのまま、リレイはいなくなってしまった。

手紙には、親友を喰らい
それで、この体を手に入れたという、非人間的な事実まで、ありありと書かれてあった。
この体は、私であり、私ではない、と。
リレイの過去の全てが書かれていた。
そして、手紙の最後に






『 私の全てを話しました。
もう、リヴァイは私のことを好きじゃなくなったかもしれません。

でも
それでも
私の過去を知っても

もし、私を好きでいてくれるなら





はじめて、私達が出会った場所に



来てください。 』



そう、書かれてあった。











「………ねえ、リヴァイ。」

「………なんだ。」


「私、巨人なんだよ。
それにね、この体だって本当は…」


「全部手紙で読んだ。知ってるからいちいち喋るな。」


「リヴァイおかしいよ…!
私、こんな最低なのに、、
だって私は巨人で……」



「………リレイ。」





「……………………?」























































































「 好 き だ 。 」



















「あ、……………………………」









気づいたら、リレイは大きな声で泣きじゃくりながら
リヴァイに抱きついていた。







リヴァイも
ぎゅっと、強くリレイを抱きしめた。




「お前の過去も

全部、全て 俺が背負ってやる。」




リヴァイはたまらずリレイを引き寄せ、キスをし

そして、ゆっくりとリレイの体を押し倒した。







「ん、………ふぅ、、………んんッ………」


激しいキスと、絡まる舌にリレイから甘い声が漏れる。

リヴァイはリレイの服をゆっくりと脱がし
はじめて間近でリレイの裸の上半身を見た。

月明かりに照らされたリレイの肌が透き通って見える。

そっと優しく、リレイの胸に手を触れた。


「恥ず、……かしいよぅ……リヴァイ………」


「俺はお前のそういう顔が好きだ。」



イジワルな笑みを浮かべながら、またリヴァイはリレイに口付けた。


何度も何度も、二人は深いキスを交わした。






そして、月明かりに照らされながら


リヴァイとリレイは


はじめて出会った場所



二人を結んだ、スイレンの花の前で



はじめて体で、繋がった。


















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朝だ。



鳥が歌い始めた。
天気もいい。
青すぎる空が眩しいくらいだ。



「おいなんだそのツラは。
人間やってける顔じゃねえな。」

「………私は巨人ですぅ………」



また、いつものようにリヴァイは朝、リレイの部屋に来た。

そして、いつもと同じ、リレイの寝起きの顔を小馬鹿にした。




「………ねえ、」



「なんだ。」
















「おかえり、リヴァイ。」










「……………ただいま、リレイ。」




そして、おはよう代わりのキスをした。




「ハァ〜イ!みんなのアイドルハンジさんだよおはよう!

二人の分のご飯持ってきてあげたんだけどどどどわぁぁぁごめん、チューしてた、チューしてたねごめんタイミング考えてなかったゴメンごめんお願いだからこれ以上首を締めるのはやめてくれるかなリヴァイ死んじゃう死んじゃう!!」


運悪くキスをしている間に
二人の朝食を持ってきたハンジが部屋に入るなりリヴァイが制裁を加えていた。



「アハハ、やめてあげなよリヴァイ、ハンジさん死んじゃうよ。」

「リレイちゃんそれ笑いながら言うことなのかな!?」

「………この部屋に寄行種が二体いるみてぇだな。」



いつのも日常。

変わらない情景。


それが、ここにはあった。




「あ、そうそう。
私ね、最初リヴァイの部屋に寄っていなかったからここに来たんだけどさぁ
リヴァイの部屋にで面白い物見つけたから持ってきちゃった☆」

「……あ?」

「えっ、なになにぃ!?」


「それはぁ〜………

これでぇ〜っす!!」



ババーンと、ハンジが掲げて見せた物は
一枚の紙切れ。



「………………バッッ、カてめぇそれは!!」


「え?何それ……」



その紙には

前に、リレイがリヴァイにあげた絵を真似て描いたような

下手くそなスイレンの絵が描いてあった。



「……っぷ、
キャハハハハ!!リヴァイ、ぜんっぜん子供の頃から画力変わんないんだね。」

リレイが腹を抱えながら大笑いした。


「もうさぁ〜、リヴァイの画力の無さは私も前から困るくらいでって待って待って待ってリヴァイ、ここで立体機動使うのは止めよう、刃を出すのも止めよう。」

「…………殺す。」



そして何故かハンジだけに向けられた怒りの矛先に、リレイはまた笑った。

その笑顔は、きらきらと

幸せに満ちていた。












これは

とある巨人と、人間が恋をしたお話。


そう。


最後に、言っておこう。




スイレンの花言葉は









『 清 純 な 心 』

【完】

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