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□夢々
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深い、深い。
まるで浮いているかの様な感覚。
未だ、醒めない。











─────────夢々─────────







「そろそろ、此方に来てはくれないか」


無機質な部屋に男のテノール。


「断る」


間髪入れずに女のアルト。
女の手元から鎖の擦れる音がする。
指に一本ずつ繋がれた細い鎖は手首に纏められる様繋がっている。

その鎖とは別に手首に鎖。


「この状態でどうやって近付けと?」


ジャラ、と手首を持ち上げ態と音を鳴らす。
詰まらなそうに鎖を見やれば怠そうに手を落とす。


「俺の所迄なら届く長さだよ」


本から目を離し女に視線を移す。
視線が交わる事は無い。
本に栞を挟み自分の周りに積み重なる本の上に置く。

足元に影が差しふと顔を上げると、そこには先程迄向かい側で無愛想に座っていた女が自分を見下ろしている。


「はは、気でも変わったか?」


「貴様に届くなら手を下せると思ってな」


表情1つ変えずに淡々と述べる相手。
本当に女かどうか疑う位肝が据わっている。
そこが気に入って生け捕りにしたんだけど。


「面白い冗談だな、この状況下で良く言える」


立ち上がり身長が逆転した所で相手を見下ろす。
此方を睨み付ける視線は受け流して相手の細い金の髪に手を掛ける。
指を通せばさら、と直ぐに通り抜ける短い髪。
上質な髪だ、と殆ど無意識に呟く。


「…は、高く売れそうか?」


鼻に掛ける様に笑う女を髪に手を掛けたまま見詰める。

…売るのは少し、勿体無いかな。

柄にも無い事を思っては手元で髪を遊ばせる。


「…そうかもな」


呟く様に言えば金髪の女に口付けた。
一度目は触れるだけ、二度目はその行為が判る様に確りと。

足元で鎖の擦れる音。
でもそれ以外に抵抗の色を表すものは無い。


「…どういうつもりだ」


唇が離れると直ぐ様口を拭う。
瞳は彼女の民族特有の緋色に変わっている。

かつて一度手に入れたその瞳。
…飽きたと思ったんだが。


「その瞳が見たくてね、綺麗な赤だ」


綺麗に赤一色に染まる瞳に見とれ目元にまた口付けを落とす。


「余程死にたいらしいな」


細い腕が俺の喉元に手を掛ける。
無機質な鎖の冷たさが皮膚を伝って来るのが判る。
指先に力が籠り気管が狭くなる感覚。

見下ろすと緋色の瞳が俺を冷たく見詰めている。

…この瞳を眺めながら息絶えるのも悪くは無い。

でも未だ、見ていたい欲の方が強いな。


「…そう死に急ぐなよ」


言うが早いか自身の首を掴んでいた手を掴むと直ぐに捻り上げて傍に投げる様に転ばせる。

手首を押さえ尚も緋色の瞳で睨み付ける女。
澄ました顔が苦痛に歪む姿も、中々。


「直にノブナガ達が帰る、生き残れると良いな」


殺させる気何て更々無いけど。


思った事は口に出さず、先程読んでいた本を手に取り頁を捲った。
俺を見詰めた瞳は未だ綺麗な赤。









深い、深い。
まるで浮いているかの様な感覚。

未だ、醒めないでくれないか。




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