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□名借
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嗚呼、確かにそう言った。
───────名借───────
「また月見てるの」
空に意識を取られ何時の間にか背後に姿を現した男に内心驚きつつも平然を装い頭だけ相手に向ける。
「…随分早起きだな。 未だ午前2時だぞ」
「物音がしたから起きたんだけどさ、君だったのか」
ふあ…と眠たげに欠伸をすればさも当然という様に隣に腰掛ける。
「隣に座るな」
「はは、冷たいな。 中々こうゆっくり月を眺める事も無いし、今日だけだから」
そう言うとニコリと笑って頭上の月を見上げる。
相手の何処と無く愉しそうな顔を見て、今日位ならと自身も月に目線を運んだ 。
何れ位そうして居ただろう。
2人共何を話す訳でも無く唯じっと月を眺めては息を小さく1つ吐く。
風の音のみの空間に音を差したのは女の声だった。
「月を見ていると、昔を思い出すんだ」
その声は何処か愁いを含んだ声だった。
「昔も良く月を眺めていた」
「ふぅん...1人で?」
何気無い男の問いに女の瞳は哀しげに揺れる。
「…友人や両親とだ。 貴様らがクルタの里を襲う1ヶ月前には里の皆で満月を見た」
「そうだったんだ、確かにあそこなら綺麗に見れそうだしね」
悪びれる様子1つ無い相手を怪訝そうに一瞥して言葉を続ける。
「…最後に皆で見た月は美しかった」
ぽつりと紡がれた言葉はとても哀しい音に思えた。
「悲しいなぁ。 そんな事考えながらお月見なんて」
「誰の所為だと思ってる」
月から目を離す事無く冷淡な音に変わった声は男の耳に余韻を残す。
「判ってるよ、少し巫山戯ただけ」
鼻に掛ける様に笑い答えれば相手はそれが気に食わなかったのかギロリと睨め付けた。
「…精々余生を楽しむが良い。 近い将来貴様等を殺してやる」
「…ははっ、鎖野郎も冗談言うんだ」
口角だけを引き上げれば女の肩を押し後ろに倒す。
その光景を女はまるで他人事の様に静観していた。
倒した際に顔に掛かった髪を右手で払っては掬い手元で遊ばせる。
「俺等を殺すって? 出来ない事は言わない方が良い」
髪を弄っていた手は金糸をするりと抜けて首筋を這う。
鎖骨上部に指を這わせれば其処に歯を立てる。
「君も知ってるよね、団員同士のマジギレは御法度なの」
首筋には男が付けた薄い歯型と鮮やかな蜘蛛の刺青。
「…貴様等を、殺す為の楔だ」
自身の刺青に手を宛て何かを祈る様に目を瞑る。
「私は何時でも貴様等の命を天秤に掛けている。 それを努々忘れぬ事だ」
誓いを掲げた瞳は深紅に染まり美しく輝く。
「ま、君が何を思ってても良いけど今日から仲間だ、宜しくね
新しい11番さん」
鮮やかな蜘蛛の刺青に刻印された11の番号は月の光を反射して女の肌よりも白く輝いた。
嗚呼、確かに仲間だと言った。
本当にそう思うなら、貴様等は私を殺すべきだ。
私は貴様等を殺す。 必ず。
手足が半分になるその前に私を殺してみると良い。
貴様等の頭が作った掟を破れ。
゛その時こそ、貴様等が死ぬ時だ ゛
fin.→