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□雨々
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今日も雨が降る。
雨音だけが私の心を慰める。

雨の匂いがする。
雨の匂いだけがこの場の鉄の臭いを紛らわせる。




「…珍しく、戦闘員が見張番か」



雨の音に混ざり聞こえ無い程の声。
通る声に何時もの怒りは滲み出て居らず独り言の様にも聞こえた。



「私に何か吐かせろとでも言われたか?」



「...ワタシ雨嫌いよ、それだけね」



誰も居ない様に見える部屋の一角から闇に似た黒衣を纏った男がかつり、と靴音を鳴らして前に出る。



「雨が嫌いで任務に出ないのか、随分可愛らしい理由だな」



ふ、と鼻に掛ける様に笑えば相手を一瞥して僅かに口角を上げる。



「もう一度それ言ったら御前殺すよ糞餓鬼」



言葉が荒くなった割には声色も表情も特に変化は見られない。
面白く無いと目線を外の雨に向ける。



「…貴様等は、何を思いながら人を殺すんだ」



さっきよりも小さい声は男の耳に届いたものの至極掠れた声だった。

何をと問われると直ぐに答えは出ない物で、自分なりに考えてみたがやはり思い浮かぶのは詰まらない答えだった。



「...特に何も思て無いね、団長の命令だたりワタシの邪魔だたり」



「...そうか」



「何でそんな事聞くか」



質問に答えを返せば相手に質問を投げる。
別に興味がある訳ではなく只の気紛れに過ぎ無かった。




「時に慈善活動をするというのがどうも信じられなくてな。 人を殺す時に何も考えていないというのは以前も聞いたが、人を助ける時は何を思っているのだろうか、と」



目線は合わす事無くつらつらと並べられた言葉は途中途中男の耳に入らなかった。



「勘違いしてるよ御前。 ワタシ人助けと思て活動して無いね」



不服だと言わんばかりに息を重く吐けば鎖に繋がれた相手の真後ろに移動する。
雨足が強くなって部屋には雨音だけが反響する。


相手の手元から垂れる鎖の鉄の匂いを鼻腔が捉える。
ジャラ、と音が短く聞えた。

音のした方向に目をやると鎖に繋がれた右手を軽く上げ外に差し出している。
何を、と言葉を発する前に相手が口を開いた。



「…判ら無いのだよ、貴様等は只の外道なのか、人なのか」



空に差し出された手は何かを握る様にきつく握られる。
雫が腕を伝い枷を濡らした。



「仲間の為に哀しみ、涙を流す事が出来る者が、何故人の命を奪う事が出来るんだ? 私には理解出来無い」




「ワタシ達盗賊、邪魔する奴は殺すね。 御前も用が済めばバイバイよ」




空を眺める相手の首に手を添えれば肉を抉る要領で爪を立てた。
その箇所から血が流れ出しても金髪は揺れる事無く雨を見詰めた。




「…逸そ貴様等を道連れに冥界を旅するのも一興か」




「らしくないね、鎖野郎。 やっと諦めたか?」




相手の言葉を嘲笑う様に言い放つ。
金髪が揺れ此方に顔を向ける。

その表情は穏やかでいて寂しそうな、まるで泣くのを我慢している子供の様だった。




「…それでもいいと思ってしまうんだ」







哀しげに震える睫毛の持ち主に返す言葉は見付からなかった。
相手の目は何を写したのか。
心等欲しくは無いが、それ故に判らないものだと解釈する他無かった。




「…気分悪いね」










( ねえパク、今日綺麗な宝石盗ってきたの。 ほら綺麗じゃない? )



( ちょっと何してんのシズク。 それパクの分なんだから早く置いて来な。 )



( オメェが居ねぇと色気無ェなぁ、パクよ )



( ノブナガ、アンタ良い度胸だね。 そんなにパクが恋しいなら隣に今すぐ埋めてやるけど。 )







一緒だった。
一緒だったんだ。





「…どうしたら良いか教えてくれ」






私には、「人」は殺せない。

雨は変わらず降り続けて私を癒した。




fin.→
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