タイトル

□3センチ
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君との距離は遠い。





君は今何処で何をしているの?
そんな事すら判らない。


君は今何処で何を思っているの?
それは近くにいても良く判らないけど。





「すぐに戻って来るから、そんな顔しないで」





すぐに戻って来るだなんて言っておいて帰るのは数ヶ月も先、なんて事には慣れた。





「夜にでも連絡するから」





そう言っていた割に連絡が無いのにももう慣れた。



お陰で一人で暇を潰す事にも慣れて、今は子供の頃の様に本の中の世界に想いを馳せて自身が経験し得ない物事に夢中になる。
子供の頃は共に本の世界へ旅する仲間も居たが、それはもう随分昔の事で、きらきらと光る本の世界とその友人に想いを馳せたままそっと本の表紙を閉じる。

少しの間目を瞑りゆっくりと瞼を持ち上げる。
視界に写るのは整列された無数の本達とそれをゆらゆらと照らすオレンジ色のランプ。
不規則に揺れるランプの火はとても優雅で、綺麗に思えた。
まるで踊っている様だ、と目を細める。

そんな事をしている間にあっと言う間に夜は更け、直に朝日が昇る時間になっていた。
まだ空が暗い内に仮眠でも取ろうかとランプの火をふっと吹き消した。

窓の外を見遣り、このまま朝日を望むのも良いかとも思ったが二三度頭を振って寝床に向かう。

寝床に向かう途中から睡魔が手招きをしているのが判った。
本を読むのはとても楽しいがそれなりに疲れるものだ。
早く寝てしまおうと寝床に付けば意識がみるみる沈んで行くのを感じた。



「...クラピカ」



意識を完全に手放す直前に名前を呼ばれ、半ば無理矢理に重たい瞼をこじ開ける。
声の主は予想がついていた。



「ただいま、クラピカ」



「.....遅い」



予想通りの相手にただ一言の不服の言葉を洩らす。
御免ね、何て言って眉根を下げて私の髪を緩やかに梳く。
それが意識の遠い自分にはとても心地が良かった。



クラピカ、と小さく呼ばれる。
顔を向けて反応すれば口元に優しいキスを落とされる。
唇が離れるのが口寂しく感じて2度目は自身から腕を回してせがんだ。
唇が離れると相手は珍しい事もあるもんだ、と笑っている。



「..眠いだけだ」



短く簡素に反論すれば回した腕はそのままに相手の首元に顔を埋める。

意識がまた沈んで行く。

背中に回る心地良い圧力に身を任せてどんどん沈む。



お休み、良い夢を。



沈み切る直前に何とか聞き取れた言葉。

目覚めた時に君は居ないかも知れないという不安に気付か無い振りをして、今度こそ意識を手放した。




朝、君が居なくてもそんな事には慣れた。



慣れない珈琲の匂い。
慣れない朝の挨拶。
慣れない朝の君。


おはようと言ってさっきと同じ様に腕を回される。


慣れていない朝。
こんなにも君が近いだなんて。



fin.


女々しいクラピカが見たかっただけです..,へへ

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