タイトル

□吐息
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俺を包む細い頼りない腕。
食事をろくに取らない痩せた身体。
その為に艶を幾らか無くした金色の髪。




特に不満は無い。
寧ろこれが俺の理想だ。






溌剌と俺を睨む緋い瞳が最初は美しいと思った。

心から「欲しい」と思った。

些か強引な手段だったが自分の所有物にする事は簡単だった。
これでいつでもあの宝石を眺めていられる、そう思うだけでらしくもなく心が騒いだ。


最初は思う通りに宝石として愛でていられた。
簡易な挑発に易々と乗ってきたり、なんて不器用な奴だと思った。


しかし予想以上にこいつは頭が良かった。


俺が求めているものを理解するとその全てを自身で封じた。

敵意を出さず今まで以上に食事を摂らず何を言おうと表情一つ変える事は無くなった。

それがひと月続き、流石に状況に飽きたので「ならお前の身体を貰おうか」と半ば冗談で投げ掛けた時、久方振りに相手の眉が反応を示した。

男に抱かれる等この餓鬼は思わなかったんだろう、と考えていたがその考えはまるで違うものだった。

服を剥いでみると自身が思っていた性別ではなかった。


「..女性だとはな」


相手は服を剥がれているにも関わらず先程以降反応を示さないので仕方無くそのまま抱いた。


俺の首に掛ける腕は細く頼りない。
俺を飲み込む身体は痩せていて女体の魅力は無い。
俺の動きに合わせ揺れる髪は痩けて艶がない。



魅力的という言葉からかけ離れた身体の餓鬼を抱いて面白味も無い筈なのに、ただ時折漏れる甘い吐息が脳を痺れさせた。

表情に変化は殆ど無い。 ただ、耳元で吐かれる息だけが俺を縛った。





「飯位いい加減食え」




いつも通り返事はない。

ああそれでいい。

そのまま俺を抱いて枯れてくれ。


fin.

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