パイレーツ

□魔物あらわる(ロー)
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月がきれいだな、そんなことを思いながらサンジは船首に佇み真っ暗な海に移る月を見ていた。
波の動きにつられ、映し出された月は形を変え、色を変え、それでも存在は消えることなくそこにある。

子供のころ、たった一人で何十日もすごさなければならなかったあの孤独を思いだし、ブルっと体を震わせた。
あの時もこうやって同じように空の月と海に移る月を見比べることくらいしか楽しみがなかったことを思えば、今の自分はなんて幸せなんだろうかと思う。


「さみぃのか?」


突然声をかけられ、ビクッと肩を揺らしてしまったことにどこか悔しさを感じながらゆっくりタバコに火をつけて、フ―と煙を吐き出した。


「気配殺して後ろに立つんじゃねぇぞ」
「海に飛び込むんじゃないかと、見物していたかったんだがな」
「そうかい」


ゆっくり近づいてきた死の外科医と言われる男はサンジの隣に並ぶように立った。

ひょんなことから麦藁の船に乗ることになったこの男は、どうやら自分と同じ出身だということをサンジは知っていた。
それも、このローから聞かされたのだけれど。


「海が怖ぇのか」
「…海に嫌われてんのは、てめぇら能力者だろうが」
「聞きなおそうか?夜の海が、怖ぇんだろ?」
「はぁ?……あぁ、怖ぇな。なんでもかんでも飲み込んで全て無にしようとしてるみたいでよ。一体何人もの魂が沈んでるのか…怖ぇよ」
「そうか」


短くなったタバコをポイ、と海へと投げ捨て波の音に耳をすませる。

怖い、けれどこの音や、この揺れのない所では自分は存在できないということもサンジはわかっていた。
もう自分は、海に魅入られてしまっているのだと。


サンジはローの存在も忘れて、ただひたすらに波に気持ちを馳せていく。


この同じ海のどこかに、自分の乗っていた船が沈んでいる。
この海のどこかに、自分の恩人が店を守っている。
この海のどこかに、自分の夢が…。


タバコもなく、口さみしくなったのかもしれない。
気付かないうちにサンジは口笛を吹いていた。
それは子供のころ、誰かに教えてもらったメロディだったように思う。


「…おい、黒い海の上で口笛浮くと魔物に喰われちまうぞ」
「へ?」


ぐい、と肩を引かれサンジはハッとする。
そういえばこの男はまだいたのだと。


「…な、なんだよ…魔物って」
「ノ―スの古い言い伝え、しらねぇのか?」
「知らねぇ…へー、そうなんだ。魔物ねぇ…」






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