パイレーツ

□月とトナカイ
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ざざあ、ざざあと波の音がする。
暖かい海域に入り、最近体がよく痒くなる。
自分の体が毛皮に覆われているからだろうとわかってはいるが。

毎日お風呂にはいる習慣は自分にはないけれど、他の仲間が毎日必ず誰かしら一緒に入ろうと声をかけてくれる。
今日だって、風呂の日ではなかったけど、華の匂いがあまいロビンに誘われて一緒にはいったのだ。

サンジは泣きながらうらやましいうらやましいと言っていたが自分にはまだその意味がわからなくていいんだろうなとおもう。 いや、もしかしたら大人になっても人間の性みたいなもんは自分は反応しないのかもしれない。



夜の甲板にでてみる。
波が船を揺らす度に、自分はかっこいい海賊になったんだぞ、とおもう。
尊敬するドクトリーヌや、城に住み着いた鳥たちとの生活も悪くはなかったが、今の自分が自分で好きだとおもう。
きっと星になったドクターヒルルクも酒を飲みながら自分の雄姿を見てくれているに違いない、と思いたい。

「でへへ 」

地平線を眺めながらついつい笑いが溢れてしまう。
自分はとても、幸せなバケモノだと。

空を見上げればいつでも月が照らしてくれる。自分はまだまだ強くなれると、勇気をあたえられているかのようだ。

「チョッパー。寒くねぇのか? 」

船の柵に乗り上げていたチョッパーを、驚かせないように近づいた。サンジはそのまま抱き上げて、体温を確認するようにギュッと抱きしめてくれる。

「暑いから大丈夫だ!」
「だよな、毛皮着てるんだもんな」

ニッと笑う顔は、かっこいいと思う。
女にデレデレしてるサンジは、正直いろいろと心配が尽きないが、こうやって普通にしてるサンジはやっぱりかっこいいと思う。

「サンジ!俺な、地平線を見ていたんだ 」
「へぇ、空と海の境界線でもあるからな、夜は特にきれいだろ」
「あぁ、星もな、キレイだ」
「ああ、綺麗だな。でもよ、一時間もそうしてちゃ、見張りとしては風邪ひかねぇかと心配にもなるんだぜ」

あぁ、見張り台の上からきっと自分を心配してくれていたんだと思う。
いくら温かいと言っても海の上で、あんな高い所で、ジッとしていたらやっぱり寒いよな、毛皮もないし。

「人間は大変だな」
「あ?」

不思議そうな顔をしたサンジを見上げてみれば大きな月が後ろに見えた。
月もずっと昔からそうやって地球をずっと見てきたんだろう。

「なぁ、サンジ、月はひとりでさみしくねぇのかな?」
「月が?」
「だって、見張り台にいるだけでも寂しい時あるだろ?それなのに、いつもポツンて。太陽ともすれ違いで仲良くもなれないよな」
「あー、まぁな、でもチョッパーみたいに、そうやって考えて、思ってくれるやつがいりゃ幸せなんじゃねぇかな?」
「飽きねぇかな?」
「俺らを見守ってくれてんのさ、ありがてぇな」
「おう!」

サンジはチョッパーを下ろすと、なんか飲みもん持ってきてやる、とキッチンへ向かった。
チョッパーが上を仰いで月を眺めていれば、サンジはマグカップを載せた丸いお盆を手に戻ってきた。

「ほらこれ飲めよ」

そう渡されたのは適度に温かいホットミルク。そしてもう一つはカフェオレボウルに白湯が入っていた。

「サンジ、俺は牛乳だけもらうな。こっちはどうするんだ?」
「こうするのさ」

チョッパーを抱えて甲板に座ったサンジはカフェオレボウルを足元に置いた。
チョッパーが不思議に思いのぞきこんでみれば、そこに映っていたのは空に浮かぶ月。

「サンジ!サンジ!月が入ってるぞ!!」
「おー、そうか。これはチョッパー専用の月だな」
「俺だけの?」
「ああ。手に入らねぇもんほどほしくなっちまう。だからいいんだろうけどよ、月の心配をしてくれたチョッパーに、今だけだけど月を独占する権利をあたえてやろう」
「ありがとな、サンジ!」

サンジはチョッパーの毛を指で撫でながら「明日、櫛でといてやるからな」と笑った。















***おまけ


「じゃ、俺は見張り戻るけどチョッパーはちゃんと部屋に戻ってボングで寝るんだぞ。少しくらい体休めせないと、明日ウソっプたちと遊べないぜ。釣り競争するんだろ?」
「ああ、俺寝るよ。これキッチンに戻しておくな」
「ああ、わりぃな。たのむ」

背中を向けて歩き出すサンジを見て、チョッパーはふと思う。
サンジの頭こそ、月のようだと。

空の月もいいけれど、チョッパーは気づかない間にそばにあった月を、大切にしようと思った。












おわり




 

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