パラレル

□パズル(ドフラミンゴ・ロー)
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カツンカツンと無駄に広い廊下を、贈られたばかりの革靴でわざと音を響かせるように歩き
目的の部屋の前まで来ると立ち止まる。
サンジは胸ポケットから眼鏡を取り出すとそれを身に着け、一度深く深呼吸してからそのドアをノックした。

「はいれ」

低い声に続いてサンジは思いドアを開き「失礼します」と言い中へと足を踏み入れた。

「ふっふっふ時間どうりだな、黒足。さっそく今回の仕事だが…この男だ、見たことくらいあるんじゃねぇか」

大きなソファにふんぞり返り、ドフラミンゴはサンジのほうへと一枚の紙切れを投げてよこす。
その紙がひらひらとサンジの足元まで来るとそれを拾ってみる。
それは手配書で珍しい髪色の男の写真とともに「ロロノア・ゾロ」と書かれていた。

「海賊狩りのロロノア・ゾロだ。いい男だなぁ、ふっふっふ…てめぇの好みじゃねぇかと思ってな」
「お言葉ですがマスター、俺は野郎なんかよりかわいいレディのほうが」
「こっちへこい」

サンジはドフラミンゴの差し出した手を取るようにふらりと近づき、そこに膝まづいた。
ドフラミンゴの差し出した手はサンジの頭へと乗せられ、金色の髪をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「処分しても構わねぇし、生きたままでもいい、好きにしろ。ただ絆されんじゃねぇ、必ず帰って来い」
「はい、マスター」
「色仕掛けでもするか」
「この男に効くとも思えませんが」
「お前に堕ちねぇ男がいるかねぇ」
「御冗談を」
「ふっふっふ」

そう言ってドフラミンゴはサンジの足元をチラリと見た。

「履いてきたか、どうだ気にいったか」
「はい、マスター。とても」

先週、この城に靴屋が立ち入りサンジの足形を取っただけで帰って行った。そして昨日その靴屋が再び訪れ注文のものを持ってまいりましたと渡されたのが今履いている革靴だ。
誕生日でも何の記念日でもないはずなのに、ドフラミンゴがその靴屋を手配したのだ。このドフラミンゴという男は急に気分でこうやって贈り物をしてくれることがある。
特に今一番のお気に入りであるサンジにはサプライズがたびたびあるのも周知のことだ。

「眼鏡をとれ、てめぇの宝石みてぇな目をもっと近くで見せてくれ」
「はい、マスター」

サンジは眼鏡を外すとそれを胸ポケットへとしまう。そして目の前のソファに座るドフラミンゴを見上げれば真っ黒いサングラスに自分の顔が映る。そして先ほどまで頭の上にあった手がサンジの体へ回り、あっという間にドフラミンゴの膝の上へと抱き込まれてしまった。

「っ、マスター」
「この部屋で二人の時は名前で呼べと言ったはずだ」
「ドフィ…っん」

ドフラミンゴの口がサンジのすべてを飲み込んでしまうくらいの勢いで覆いかぶさってくる。
自分の背中にまわされた腕に応えるようにサンジもドフラミンゴの背中へ腕を回し手触りのいいそのシャツをギュッと握った。






「失礼します」

入ってきたときと同じようにサンジはそう言ってドアを閉めた。
そしてやはり先ほどと同じように胸のポケットから眼鏡を取り出すとそれをかける。

来た道を戻るように廊下をかつんかつんと進んでいけば、先の角に腕を組み寄りかかっているトラファルガー・ローがこちらをじっと見ていた。

サンジはそれを気にするでもなくローの前を通り過ぎようとすれば、長い腕が伸びてきてサンジの手を握った。

「…何か用か」
「仕事が入ったんだってな、海賊狩りだろう?」
「知ってるのか?」
「俺がやると希望したんだが…黒足屋に行かせたいらしいな」
「…なんで」
「その男がお前の好きそうなやつだから、試してんだろうって噂だ」
「っけ」

サンジはポケットから煙草を取り出し、それに火をつけると自分より高い位置にあるローの顔に向けて「フーーーッ」と煙を吐き出した。
ローは嫌そうな顔をしながらも特に気分を悪くしたようでもない。

「俺はね、かわいい女の子が好きなの。ストレートなの!野郎なんて好きじゃねぇの!!」
「今更お前が女相手に起つのか」
「ああ?そりゃ起つさ…」

再び煙草を吸い込みバカにしたようにローに煙を吐き出しサンジはにやりと笑う。

「起つけどよ、突っ込まれなきゃイけない体になっちまったかもな」

そういった瞬間、空気が変わりサンジはハッとローを見た。そして自分の言ったことで地雷を踏んだと気づくのだ。
ローの腕がサンジの髪を掴みあげギリギリと顔を近づけ睨まれる。
サンジはイテテ、と言いながら悪ぶれるでもなく睨み返した。

「わかってるんだろう、黒足屋。お前はわかっているはずだ」
「やめろ、ロー」

ローの空いた手がサンジの頬を叩けば、かけられていた眼鏡が飛ばされ情けない音を立てて足元へと落ちる。
サンジはひるむでもなく今も自分を射抜くようなまなざしのローを見返した。

「黒足屋…お前は残酷な男だ」
「離せっ、ロー」

髪と顎を掴まれ、噛みつくようにキスをされればさすがにサンジも抵抗する。ローの胸を突っぱねてみても思った以上に固い体はびくともしない。

「やめろ、ロー…」

ローの唇がサンジの頬をなぞり首筋へと降りてくる。
力を入れれば折れてしまいそうなその首に顔をうずめてローはクンクンと匂いを嗅いでそこにガブリと噛みついた。

「!!、跡をつけんじゃねぇ!!てめぇ、殺されっぞ」
「構わねぇさ。お前についたこの嫌なにおいが我慢ならねぇ」
「ロー、離せっ、ロー!!」
「黒足屋」
「ロー…頼むからっ」

先ほどまで逃げを打っていたサンジの腕が今は必死にローの胸元を掴んでいる。その腕が小さく震えているのに気付きローはゆっくりと体を離した。
サンジは足元に崩れるように座り込み泣きそうに顔を崩して立ちすくむローを見上げた。

「っ、ばか…」
「悪かった」
「ばか、ローのバカ」
「すまない」
「自分だけが、つらいだなんて思うなよ…俺だって」
「黒足屋」

ローがサンジの肩に触れようとしたときに、サンジの胸ポケットから聞きなれた着信音が流れ出す。
サンジはハッとしてそれを取り出し、ローを見上げすぐに視線を外してその電話に出た。

「…はい、マスター」

ローは行き場を失った手をさまよわせてから、足元に落ちているサンジの眼鏡を拾った。

「はい、今夜は街に出てロロノアの情報を集めてきます」

サンジは先ほどローに噛まれた自分の首筋に手を当て、何か考えているような顔をし、ギュッと目をつぶった。

「…明日の、夜には…また伺えると思います。はい、はい…失礼します」

サンジは電話を切ってそれをしまえば差し出された自分の眼鏡をローから受け取った。
ローは座り込んだサンジの体を掴み引き上げるとその体を離さないとでもいうように、きつく抱きしめた。

「ロー、くるしい」
「俺もだ、ずっと苦しい」

早く離れなければ、こんなところ誰かに見られたら二人とも無事ではいられない。
それにお互い仕事が残っているからすぐに取り掛かりマスターを喜ばせなければいけない。
そうわかっているはずなのに、まるで元から一つだったというように二人の体はぴったりと嵌まりしばらくは離れることができなかった。

















おわる
 

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