シリーズ

□「ローとサンジ」 爪切り編
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カウンターの椅子に座って、ルフィはサンジに「頼む」と言う。
そして差し出したのは爪切り。

「はいよ、まってろ」

サンジはそういうと短くなったタバコを灰皿に押し付け、カウンターから出てくる。そしてルフィの隣に座ると、差し出されたソレらを受け取った。

「あー、結構伸びてんじゃねぇか」
「ゴムだから」
「爪だけどな」
「にしし、爪だってゴムだ」

受け取った物の中から爪切りを手にし、ルフィの手を掴むとパチンパチンと切り出した。そして切り終わって次には爪ヤスリが取り出された。
ルフィの指を一本一本掴みながら慣れた手つきで丁寧に磨いていく。丸く、誰が触れても傷がつかないように。

サンジはルフィの手元を見つめながらどこか楽しそうだ。そしてルフィも自分の指先を大切に扱うサンジの俯いた黄色い頭を意外なほど優しく見つめている。時間が止まったかのように優しく。

「ほら、どうだ、いいんじゃねぇか?」
「ん、サンジ、ありがとうな!気持ちよかったぞ」
「そうか。ほら、ちゃんとチョッパーに返しておけよ」
「おう!!」

ルフィはサンジから爪切りとヤスリを受け取ると奥のチョッパーのいる医務室へと消えていった。
サンジはその後ろ姿を見送ると胸元からタバコを取り出し、火を付けフ―っとおいしそうに吸いだした。

「おい、なんだ今のは」
「あ?」

サンジの後ろには、トラファルガー・ローがいた。
ルフィが爪切りをサンジにねだる前からずっと、ローはそこに座りサンジの出した粟ぜんざいを食べていたのだ。

「何のことだ」
「今、麦藁屋の」
「あ?爪切りのことか?てめぇ、爪切り知らねぇのか」
「誰に言ってる。そうじゃないだろう。何で自分でやらせねぇ」
「…俺がやったほうが…気持ちいいから、か?」

サンジがそういうや否やローの顔がげんなりとする。

「あー、だってルフィはよ、歯で爪をちぎってたんだぜ。その指を口に咥えてギアチェンジなんてするもんだから見てらんなくてよ。俺は自分の爪先までこだわってるもんだから気になっちまって。一回切ってやったら気に入ったみたいでルフィが俺んとこに頼みに来るんだ」
「…甘やかしすぎだ」
「うるせー、わーってるよ」

サンジはキッチンへと戻り、タバコを灰皿に押し付ける。
そして、ふ、とローの手に目がいった。細くて長い、綺麗な指だ。でも少し爪が角ばったように感じる。
サンジはキッチンの引き出しから自分専用の爪ヤスリを取り出すと再びローの隣へとやってきた。

「手、貸してみろ」
「なんだ」
「手だよ。ん」

ローの右手を無理に掴み、爪先をヤスリで整えていく。初めは「何だ、ヤメロ」と騒いでいたローだが、意地でもやめないサンジに負けて大人しくなる。そして指先が綺麗になるのを不思議な気持ちで食い入るように見つめた。
右手が終わり、左手を取られた。そして再び、ヤスリをかけられていく。
ローは自分の指先を見つめながら、先ほどのルフィを思い出す。まるで愛しいものを見るようにこの黒足屋を見ていたな、と。

「お前さ、せっかくきれいな手してんのに、爪切りでばちんばちん切って終わりだろ?もったいないぜ」
「…くだらねぇ」
「そんなこと言うな、ちゃんとしてりゃそれなりにモテるぜ。俺みたいにな」

顔をあげてニカっと笑うサンジに一瞬見惚れ「そうか」と答えた。それが精いっぱいだった。

「ほら、出来上がり。きれいだろ?」
「ああ、悪くねぇ」
「喰い終わったんならさっさと寝ろ。てめぇ、クマが犯罪者レベルだぞ」
「うまかった、ごちそうさま」
「だろ?また明日楽しみにしとけよ」

器をもってキッチンへと移動したサンジを見送りながらどうにも自分らしくないと思いつつ、やっぱりこんな感情だって悪くねぇと、ローは思う。













おわり

20130806

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