シリーズ

□「ローとサンジ」 耳かき編
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「きゃはははは!!サンジ、くすぐってぇ!!」
「うごくな、こら」

口では強く言っているがその顔は愛しさ満点だ。
キッチンのソファで船医であるチョッパーを膝枕して、麦藁の一味であるコックは優しく耳かきをする。
耳の中で木の棒がくるりと動くと、膝に抱いたチョッパーがくすぐったがる。なかなか進まないようだ。

「気持ちいいか?いたくはねぇか?」
「…うん、なんだか眠くなってきたぞ」
「反対側もやるからまだがんばって起きてろ」
「うん、俺がんばる」

夕飯も終わり、サンジの後片付けが終わるのを待ってチョッパーは医務室から愛用の耳かきを持参し「サンジ、お願いしてもいいか?」と可愛く聞いてくるもんだから、サンジだって悪い気はしない。

耳かきをヒョイっと逆さにして、フワフワの綿をチョッパーの耳に差し込みくるくるっとすると、きゃははと言った次の瞬間には、チョッパーの瞼がぴったり合わさってしまう。それに気付いたサンジも、刺激しないようにくるくると優しく回し続ける。
耳かきを取り出し、とフッと綿に息を吹きかけると「チョッパー?」と声をかける。その声に反応がないのをクスッと笑い、反対向きに体を動かしてやった。

「また甘やかしているのか」

声をかけたのは、トラファルガー・ロー。ローは以前ルフィが爪切りをしてもらっていた時と同じ場所で、今回は夜食に大福を食べていた。
あんこが甘すぎず、ちょうどよく塩が利いているのがなんとも絶妙だと感心する。

「…黙れ。起きちまうだろうが」

ぎろり、とサンジに睨まれたローは手の中に残っている大福を口に含み、耳かきを続けるサンジを見つめる。
サンジの手にある耳かきの先についているふわふわが、ローの心を少なからず惹きつけた。そして、自分の船の航海士であるべポに会いてぇなと、柄にもなくセンチになってしまう。

サンジは耳かきが終わったのか、テーブルに耳かきを置いて優しくチョッパーを抱きあげた。腕の中の優秀な船医はすっかり子供のように体を丸くさせてすやすやと気持ち良さそうに眠っている。
サンジは大事そうに抱えたままキッチンの扉を出て男部屋へと向かったようだ。

誰もいなくなったキッチンはしんみりとしていて、ごちそうさまを言う相手がいないのは寂しいもんだなと本日二回目となるおセンチを味わいながら、ローはいつもサンジがやっているように器をもってキッチンへと入っていく。
そして水を流しシンクにある水おけに器を浸し、泡のついたスポンジで綺麗に磨いてく。

「…おいおい、やばい天気になるんじゃねぇか」

声がするほうへ顔を向けてみれば、驚いた顔でタバコを落としそうなサンジの姿。両腕が開いているということは、どうやらチョッパーを寝かしてすぐに戻ってきたようだ。

「俺が皿洗いなんて、おかしいか」
「いやぁ、わからねぇ。お前が自分の船でどうなのか俺は知ったこっちゃねぇが…この船でそこに立つ人間なんてほとんど俺だけだ。しかも自分から、なんて…驚くだろうが」

そう言いながらも楽しそうに話しながら近づいてくるサンジから目を離さないローは磨いた器を水で流して水切りかごへとそれを伏せた。そこにサンジの手が伸び、目の前に差し出されたかと思うとキュっと音を立てて蛇口が閉められた。

「洗う時は水を出しっぱなしにするもんじゃないぜ、特に船の上ではな」
「……」
「でも、なんか嬉しかった。ありがとな」

またあの時のようにニカっと笑うサンジ。しかも今回はうっすらと頬を染めて本当に嬉しそうなのが伝わってくる。それをみてローまで浮足たってしまいそうで、その気持ちをグッとこらえた。

「いや、うまかったから。ごちそうさま」

そう言ってサンジの横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれ「ロー、お前もやるか?」と聞かれた。

「なにを」
「これだ」

目の前に見せられたのは、先ほどトナカイの船医が眠ってしまう原因となった耳かきだ。サンジは意地悪そうににやにやとしながらそれをローの目のまででぶんぶんとふる。

「…いや、俺はいい」
「はは、だよな」
「お前の膝枕なんていろいろとヤバそうだ」
「あ?寝ちゃうって?」
「いろいろ、だ」

寝たら運んでやるさ、というズレたことを言うサンジの肩をポンと一回叩いて「おやすみ」と告げたローはキッチンを後にする。

一体自分は何回あのコックに翻弄されるのか、悔しくもあり楽しみでもある。きっとまた明日の夜も夜食を求めてサンジとの空間を楽しみにこのキッチンを訪れるんだろうと、ローは思う。














おわり

20130810
 

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