シリーズ

□ 「ローとサンジ」 粗相編
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ガシャーンと船内にひびいたのはガラスの割れるような音。
また誰かがいたずらでもしたのか、はたまたケンカかと誰も気にするでもないなか、サンジだけは反応し甲板での洗濯を中断し走り出した。

何故なら音がしたのは自分の城であるはずのキッチンからだったから。

「うおおいぃぃ!てめぇ、なにしてやがる!!」
「…いや、水を」
「なんで水を欲しがるやつが何かを割ってんだよ、ぼけぇ!」
「手が、滑った」

水道の前で目の下のクマを一層濃くし、茫然と立ち尽くすローがいた。
そしてその足元には割れたガラスの破片が散乱している。

「悪い」
「悪い…じゃねぇよ!それは、ナミさんお気に入りのグラスじゃねぇか!てめぇ、ナミさんが使った後まさかベロベロ舐めたんじゃねぇだろうな!」
「誰がそんなことをしたがるんだ」
「俺だよ!悪いかっ!」
「気持ち悪い」
「うがーっっ!!」

怒髪天のサンジを無視して、ローがしゃがみこみガラスを拾おうと手を伸ばすが、その手をサンジの手が掴み、とめた。

「俺がやる…座ってろ」
「いや、俺がやる」
「いいから!!ほら」

サンジに促されるままにカウンター席についたローは、水道で手を洗うサンジから目が離せない。そして自分の目の前に出されたグラスに目を止めると、そこに優雅な動作でゆっくりとサンジが水を注いでくれる。

「飲んで待ってろ…あー、怪我しなかったか?」
「…俺は大丈夫だ」
「そうか」

ローはそのグラスを手に取り、ゆっくりと喉を潤す。するとその姿をサンジがジッと見ていて、ふいにローと視線が絡み合う。
するとサンジが「悪ぃ」と目を反らした。

「なにがだ」
「いや、さっき割れたこれ…ナミさんのお気に入りのグラスって嘘ついた。本当はナミさんに使ってもらうために俺が勝手に用意したグラス、が正解だ」
「そうか」

かちゃかちゃとカウンターの向こう側でローの割ったグラスを片づけている音が聞こえる。サンジの姿はローからは見えなくなっているけれど、落ち着いた声だけはちゃんと届いていた。

「ロー、お前さ、不馴れな船で不便だよな。怒鳴って悪かった」
「弁償させてくれ」
「無理だ、断る。てめぇが買ったグラスでナミさんがおいしそうにドリンク飲んでる姿見たくねぇ。俺がまた絶対に買ってくるんだ」

キッチンの隅にあるほうきとちりとりを取りに行き、それでさっさと掃除を終えたサンジはやっとローの隣に姿を現し、いつの間に用意したのか皿にきれいに並べられたいくつかの四角いチョコレートをローの目の前に差し出した。

「ほら、食えよ。甘いもん嫌いじゃねぇだろ?昨夜作ったんだ」
「黒足屋、好きだ」
「あ?」
「突き放したり甘やかしたり…なんだそれは、それが世にいうツンデレか?」
「は?なに言ってくれてんの、てめぇ」
「お前といると自分がコントロールできねぇ」
「あ、そ。んじゃ俺洗濯してくるわ」
「おい!!」

ローを残してさっさとキッチンを去ろうとするサンジの腕を、今度は慌ててローが掴んだ。

「なんだよ、離しやがれ」
「黒足屋」
「なんだよ」

ローがゆっくりサンジに近づくと、それにこたえるようにサンジも瞼を閉じた。
まるで挨拶のように自然とキスを交わし、そしてゆっくり離れていく。

「…ロー、お前も甲板いくか?ちょっとくらい太陽浴びやがれ」
「ああ、付き合おう…その前に」

カウンターに置かれた皿に手を伸ばし、ローがチョコをぱくっと口に含み「うまい」と呟いた。その姿にくすっとサンジが笑った。















おわり
 

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