アニバーサリー

□ボーダーライン(2013ロー誕)
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「…っ、あたまいてぇ」

小さな窓から差し込む光がまぶしくて、それでもけだるさに負けてもう少しもう少しと粘っては見たものの、喉に渇きを覚え痛む体をサンジはようやっとベットに起こした。

「あれ…」

見慣れない部屋だとその時気付く。
昨日はどうしたんだっけ、と自分を見てみれば白いバスローブ一枚で。

「よう」
「え、」

少し困ったようなローが大きなソファーに座ってサンジをジッと見ている。

「え…あれ」
「覚えてねぇのか」
「へ?」

頭を抱えて逡巡してみる。
ローの誕生日に誰にも邪魔されずに二人きりで過ごしたいと望まれて。
いつか違う道を進むあきらめなければならない相手だけれど、好きだから、と。
だから食事だけでも一度だけ、二人きりでと。

サンジにその気はなくて、ずっと断り続けてきてはいたけれど、最近では一緒に過ごす時間も増えてなかなか話の分かるこのローという男に惹かれだしていたのも事実。
でもサンジはそのことは自分の中にだけとどめて生きていくつもりだった。
ローの言うように生きる道が違う相手だからだ。

「あー…ロー、あの」
「昨日、お前が酔っぱらって」

同じ船に乗るようになって、ずっと口説かれ続けて、そしてローの念願かなって誕生日から2日遅れてやっと小さな島についてみんなには内緒でひっそりとたたずむホテルでのディナーを楽しんだ。
普段と変わらないローと過ごしているうちに何だかたまらなくなって出されたワインをがぶがぶ飲んでしまったような記憶がよみがえる。

「なんとなく…覚えてるような、覚えていないような…」
「…だろうな」

いつも熱い視線を感じていたのは自覚している。
それでもそれにこたえることはできなかった。
それなのに、まさか夕べローと一線を越えてしまったのだろうかとサンジは内心パニックだ。

それでもそんな動揺をあらわにするのは自分を欲してくれているローに対して失礼だし、何よりプライドの高いサンジはかっこ悪いと思ってしまう。
落ち着くようにサイドテーブルに乗っていたジャケットに手を伸ばし、そこから煙草を取り出して一本咥えて火をつけた。深く吸い込めばやっと気持ちが落ち着いてきて、改めて視線を投げかけてくるローのほうへと顔を向けた。

「…黒足屋、後悔してるみてぇだな」
「え?」

あぁ、やっぱり俺、やっちゃったんだ。体が重いのはアルコールのせいだけじゃないんだ。
サンジは煙草の火を見つめてから少し考えてその視線を挙げて再びローと絡ませた。

「黒足屋」
「してねぇよ、後悔なんてするはずがねぇ」
「……そうか」

ソファーをきしませてローは立ち上がり、ベットへと近づいてくる。
そして水の入ったグラスをサンジへと差し出しながら、フと笑った。

「ロー?」
「わりぃ、嘘だよ…やってねーよ」
「…は?」
「酔っぱらって眠ってる相手にするほど俺は終わってねぇ。ましてやそれが…黒足屋、お前なら」
「へ?」

着た覚えのないバスローブに視線を移せば、ローが「ああ」と言う。

「お前が下のレストランでゲーゲー吐きやがるから仕方なく部屋を取って着替えさせたんだ。もちろん介抱した俺も被害をこうむったがな」
「げーー!!まじかよ、わりぃ…」
「いいんだ。それでも…夕べ、祝ってくれて嬉しいと思えたから」
「ロー、」
「約束したように、これでもうお前にはちょっかいは出さねぇ」

酔っぱらって嘔吐したサンジを抱え部屋を取り、服を脱がせてシャワーを浴びせた。びしょ濡れのサンジを抱えて寝室に戻り、少し冷えたその体を拭いてやった。
そして備え付けのバスローブをまとわせてベットに転がしたのには一時間かからなかった。

それでもローにとっては永遠に続く拷問のようだった。

手に入れたくて口説き続けてきたのだ。これはサンジには伝えてはいないがローがサンジを気に入ったのは2年前のシャボンティからだった。噂どうりの破天荒な船長のもとで大立ち回りをしていたサンジから目が離せなかったのだ。ローはこの思いをずっと抱えてきていた。
知ってみれば女にだらしがなく男には厳しいながらも平等に、敵も味方も関係なく愛情を与えてしまうこのサンジという男を、サンジだけをずっと。
それでもサンジは拒絶まではしないまでもその意思はないとはっきりローに返事をしていたのだ。

だからこの誕生日に二人だけで過ごせたら諦めると、それを条件に一緒に過ごしてほしいとサンジに伝えていたのだ。

「ロー、ごめ」
「あやまんな」
「…」
「かっこわりぃじゃねぇか、俺」

俯くローを見ているとどきどきと心臓が音を立ててるのが自分でも分かり、サンジはローにまで聞こえてしまうんではないかと動揺していた。俯くローの横顔が綺麗で、こんな俺様な男が自分の一挙一動で表情を変えるという事実にサンジは高揚を隠しきれない。

いっそ、自分も好きだと打ち明けてしまおうか。
でも先のことを考えると、自分がこのローという男ににおぼれてくのも目に見えているからそれが怖いと、サンジは短くなった煙草を灰皿にギュッと押し付けた。

「そろそろ出るか…ああ、服乾いてねぇかな」
「ロー」
「なんだ、これ以上二人でいたらもうまずい…お前も男ならわかるだろ」

自嘲気味に笑うローが立ちあがりハンガーにかけてある服へと手を伸ばした時に部屋に置いてあった電伝虫が鳴りだした。

サンジが思わず手を伸ばせば、相手はフロントから。
どうやらチェックアウトに合わせてローがモーニングコールを頼んでいたようだ。
サンジがローに視線を移せば黙ってうなずロー。その顔を見たときにサンジの中で何かがはずれた。
そして気がつけば大きな声で

「延長!!!!」と、言っていた。

勢いづいて口から出たその言葉に驚いてこぼれそうなくらいに目を開いたローと目がかちあった。
そしてそれを言った自分自身に驚いて、あわわわと顔から火を噴きそうなサンジ。

それでも船の時間は大丈夫かなとか、ローのそんな顔初めて見た、とかやっぱり俺もローが好きなんだな、など色んなことを一気に抱えてやっぱり自分の気持ちをチャンと告げるべきだと、一瞬で決意を固めてしまった。

何も言わないで少し泣きそうな顔をしたローが手にしたハンガーを足元に落とした。
それを見たとき、サンジはもうそれだけで何も怖くはないんだと思った。









おわり





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