アニバーサリー

□ライバルどもに告ぐ!! (2013年 ゾロ誕)
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コックが好きだ。
ゾロがそう自覚してからその思いを伝えるまでに要したのはたった一日。

ゾロにとっての初恋であるサンジへの気持ちは抑えようもなく、とめどなく溢れ出してしまったのだ。

サンジは堂々と「好きだコック、付き合ってくれ」と告白してきたゾロに驚き、お気に入りのグラスを拭いている途中だったのも悪かったのだが、それを落として割ってしまったのだ。
サンジはグッと唇を一文字に結び、ゆっくりとした動作でキッチンの隅にあるほうきとちりとりを持ってきて、かがみこみながらグラスの破片を大事そうに集め出したのだ。

「…驚かせて悪かった。てめぇのことしか考えらんねぇから…体鍛えようにも身が入らねえ。だったらいっそてめぇに」
「俺も」
「あ?」
「俺も…ゾロが、好き」

かちゃかちゃとガラスをちりとりにまとめているサンジはうつむいたままで、ゾロから顔を見ることはできなかったけれど、頬から耳にかけて赤く染まっているのが見て取れた。
ゾロはそんなサンジをかわいいと思いながらも鼻の奥がツンとするほどに感動したのだ。


そんな二人が付き合いだしたのが1か月前。


バタバタと過ごした。本当にバタバタと…。
気づけばパンクハザードにいて、別行動のために自分が留守の時、変な奴らにサンジ(とか他数名)を訳の分からないやつにサニーから運び出されたりだとか、大好きなサンジがナミになってしまっていたり、サンジがチョッパーだったりとゾロとしてはがっかりすることこの上ないことが重なった。

しかも気づけば一味ではないはずのないメンバーが何人も当たり前のように(ゾロ視点)サニーに居座っているではないか。
しかも自分のサンジになついてるガキだとか、自分のサンジに惚れこんでしまっている(ゾロ視点)変な侍だとか、自分のサンジと関わりたがっている(ゾロ視点)目つきの悪い外科医だとか、サンジに気に入られたがっている(ゾロ視点)ガス野郎だとか…。

ゾロは思う。
ルフィだって、大概だ。自分のサンジを一日何回呼ぶんだろうか。きっとルフィは離れていた2年間の間にだって絶対「サンジ、めしー」と声を張り上げていたはずだ、そうに違いない。
ブルックだって、いつも自分のサンジを褒めながらキッチンに入り込みかいがいしく手伝いなんかしやがって。
チョッパーだってかわいいからって、かわいいからってそのかわいさで自分のサンジに甘えている姿を何度ともなく目撃してきたのだ。かわいいからって。

ゾロはガクリとうなだれた。
みんながサンジを好きなんだ(ゾロ視点)。
恋愛に疎い自分が惚れただけの魅力を持っているんだから、やっぱりサンジは特別な人間なんだ(ゾロ視点)。


「ゾロ?どした」

サンジがおやつを運んできてみたら、甲板で太陽の日差しから隠れるようにしていたゾロが、なぜかネガティブフロウを受けたように情けない体制になっていた。

ゾロはハッと起き上がり、目の前のサンジをジッと見つめた。

「ゾロ?」
「コック…」

ゾロは抱きしめたかった。
心配そうな顔をしているサンジも、思った以上に愛らしくてゾロは心の中で悶えてしまうくらいだ。
抱きしめたい、チュウしたい…でもそれはできなかった。
実はこの二人、まだ手さえ握ったことのない間柄で、意外なことに奥手なおつきあいを進行中であった。

「ゾロ??」
「…ああ、おやつか。わりぃな」
「お前大丈夫?なんか疲れてない?」
「いや、大丈夫だ。なんもねぇ」

サンジからベーグルパンを受け取りそれにパクリと食らいつく。
もっしゃもっしゃとゾロが食べてる姿をサンジはほっこりとした気分で見つめているのをゾロは気づいてはいない。

「んまかった、ごちそうさま!」

ぱちんと両手を合わせて誰にいうともなしにゾロが口にすれば「はいよ」とサンジが返事をしてくれる。

「あ、ゾロ」
「あ?」

サンジの指がスッとゾロの口元に伸びてくる。途端にゾロの心拍数はMAXまで振り切れたが見た目からは気づかないほどに無表情なゾロのこと、サンジにはその変化は気づかれてはいない。

「ほら、弁当ついてた」

そういってゾロの口元に張り付いていた輪切りのきゅうりをぴらっとゾロに見せたかと思うとそれをサンジがぱくりと食べてしまった。

「じゃ、片づけてくっから」
「…あ、コック」
「ん?」

好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、大好きだ――――――。
抱きしめたい、キスしたいっ、その笑顔をひとりじめしたひぃぃぃぃ。

「ゾロ?」
「う…なんでも、ねぇ」
「そうか?今日お前誕生日で主役なんだからよ、しっかりしとけよ。夜には宴だろうしな」
「ああ、大丈夫だ」

サンジは悶々とするゾロを残して明るい太陽に下へと出ていく。
陽の光に照らされて金糸がキラキラと揺れるさまはゾロにとっては眩しすぎるくらいの宝石でしかありえない。
海の上での生活なのに、しみ一つない肌も色味のある声もしぐさもサンジを作るすべてのものがゾロにとっては神々しいのだ。

「…手が出せねぇ…」

両想いのはずなのに。
告白が成功してからは、ゾロの見張りの時などにはサンジも一緒になって月を見ながら酒を飲むことも増えてきた。
おやつの時間も一人の時には、さみしくないよう気を使ってか、はたまたサンジも一緒にいたいと思ってくれているからなのか、食べ終わるまでそばで待っててくれるようになった。

それだけで十分幸せだけれども、だけれども…

「さーーーーーーんじーーー!!!」

遠くからルフィの声が聞こえてきて悶々としていた気分も一蹴され、ゾロはハッとした。
悶々とはしなくなったものの、ついではいらいらとし始めたのだ。

誕生日なのに!!!

どうしてみんな
サンジを呼ぶのだろうか、どうしてみんな。

「サン五郎ーー!!」

ガキの声が船に響いた。それに続いてサンジの笑い声も。
ゾロはふるふると怒りのあまりに体が震えだすのを感じた。

「サンジ殿」
「おい、黒足屋」

みんながサンジを…呼んでいる。

「サンジさん」
「サンジぃーー」
「な、サンジ」

骨やタヌキ(訂正:トナカイ)、鼻まで。
そして、そして…

「ねぇ、コックさん」
「ロビンちゅわ――ん、なぁにーー??」

そして魔女の声がした後に、メロリンとしたサンジの声。
メロリンサンジもかわいくて大好きだけれど、その他人への甘すぎる声は自分の誕生日である今日、悶々と我慢し続けてつもりに積もったものを壊すには、十分すぎるくらいの破壊力を持っていた。

ゾロは立ち上がり駆け出していた。
もう我慢の限界が振り切れたことにかまっていられないほど。





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