アニバーサリー

□うわさのけつまつ(2014年 サン誕)
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うわさのけつまつ              









ドアチャイムが鳴り、サンジはタバコを消して玄関へと向かった。
ドアを開けてみれば思った通りの人物、ゾロが立っていた。
いつも以上に眉間にしわを寄せてどこか不機嫌な顔のゾロはドアが開いてすぐに、当たり前のようにサンジの家へと上がり込んでくる。

「なんなの、お前。部活帰りにしちゃ遅くない?またどっかで寝てたんだろう?あ、まさかまた迷子じゃねぇだろうな」
「迷子じゃぁねぇよ!!…気づいたら部室で寝てた」
「あ、そ。じじい遅いから簡単にチャーハンにしたんだけど、食べるんだろ?俺はもう済ませちまった」
「食う」
「先部屋行ってな」

ゾロは勝手知ったる様子でサンジの部屋へ向かうと、どっかりとベットに横になった。
ドアの向こうからはサンジがキッチンに立っているのであろう、食器をかちゃかちゃといじっている音が聞こえる。
ゾロはそっと目を閉じ、先ほどまでいた部室でのことを思い出す。

誰かに対して久しぶりに、怒りを感じその衝動のまま先輩の胸ぐらを掴み殴りかかろうとしてしまった。
数人いたほかの先輩になだめられながらも威嚇をやめることはできなかった。
落ち着きを取り戻したのは、ゾロの迫力から逃げるように帰って行った先輩たちの後姿をみたあとだったのを思い出す。

かちゃと、ドアの開く音がして目を開けてみれば呆れた顔のサンジが部屋に入ってきた。

「お前ね、まだ眠いわけ?寝るなよな、俺のベットでさ。泊まるんだったら風呂入って布団敷きやがれ」
「寝ねぇ。食う」

いい匂いとともに湯気を立てているサンジ特製のチャーハンがオレンジ色のテーブルに置かれた。
ゾロはむくりと体を起こし、チャーハンとともにお盆に乗っているサラダをつまんでからスプーンをコンソメスープに浸しがちゃがちゃと混ぜ、チャーハンをパクリと口に放り込んだ。

「ゾロ、お前さ…何回も言うけどスプーンをスープで洗うのやめろ」
「洗ってるんじゃねぇ、飯粒つかねぇように濡らしてんだ」
「かー、やだやだっマナー悪くて」
「俺にんなもん、求めるんじゃねぇ」

パクパクと綺麗に平らげられていく皿を見ていればサンジの表情もやわらかくなっていく。
ゾロはサンジの作る料理はもちろん好きだったけれど、ごちそうさまを言った時のサンジの顔を見るのがたまらなく好きだった。

中学の時に隣の席になって、サンジに喧嘩を吹っ掛けられてから仲良くなるのに時間はかからなかった。
ゾロに母親がいないことや、仕事で留守がちな父親のことを知ると何故か距離はグッと縮んで、気づけばサンジは毎日のようにゾロの家に通っては冷蔵庫を覗いて、食事に興味になかったゾロさえも食べたこともないような感動さえする料理に仕上げてくれた。
ゾロの父親の分も作ってくれるので冷蔵庫の中にはいつでも食材だけはそろうようになったのだ。

高校に上がってからゾロの部活が忙しくなると今度はゾロがサンジの家に通うことも多くなった。
そこで初めてサンジにも母親どころか父親もいないことを知り、ゾロは今までサンジのことを知らな過ぎた自分に辟易することとなる。

サンジの祖父は料理人で、サンジの暮らすマンションから10分ほどのところにレストランを構えている。
いつも帰りは深夜なので、ゾロは滅多に会うことはないけれど愛らしいおさげの髭が似つかわしくないほどの厳格な爺さんだ。思わずゾロも正座をしてしまうくらいの威厳があるが、とてもサンジをかわいがっていることだけはゾロにも感じることができている。

「なぁなぁ、ゾロ?なんかあったのか?」
「…なんで」
「なんか、いつもと違くねぇ?」
「変わりねぇ」
「そうかぁ?」

ゾロが食べ終わり「ごちそうさま」と手を合わせると、サンジは「ん」と言って口元を緩ませる。そしてお盆を持ちキッチンへと戻っていく。

「ゾロ、泊まってけよ。なぁ、寝るんなら風呂入れ」
「寝ないって言ってるだろうが」
「怪しいもんだな。じゃあ、俺風呂はいるから。お前その間に…帰るなら声掛けろよな」
「まだ帰らねぇ」
「あ、そ」

ぱたんと静かにとじられるドア。
ゾロはテレビのリモコンを手に取り、見たくもないバラエティをつけた。
目の前には、まだ高校生のくせにすっかり癖になっている、サンジが吸ったのであろう煙草の吸殻。
その灰皿の中から一つ取り上げるとゾロはそれをパクリと咥え、すう、と吸いこんでみた。
火もついていないそれは焦げた灰の匂いしかしなくて、サンジの匂いと全然違うなとゾロは思う。


サンジのことが好きだ。

そう自覚したのはいつだったのかわからないけれど、いつもすました顔で偉そうに話すとこも、本当は情が熱くておせっかいなところも、女好きでかわいい子を見ればメロメロしてしまうとこも、ゾロにとってはサンジの周りは色づいていていつもきらきらとしているのだ。
くだらないことで喧嘩して、ふざけたバカをやりながらもそんなキラキラした姿を見ているのが好きだった。

だから先ほど部室で寝てしまっていたときに聞いてしまった話を、ゾロは許すことができなかったのだ。


『2年の、サンジってさ…まわされたらしいぜ』
『マジかよ、だってあいつ強くなかった?』
『ほらあいつ男嫌いなのに何でかちょー男にモテるじゃん。フラれたやつらが数人でさ』
『それ俺も聞いたことある』
『マジで、男じゃん』
『ま、あいつなら俺もできるかな、なんか色気がさ』
『あ、わかる。俺もサンジなら――――』

部活終わりに着替えて横になっていたらいつの間にか外は真っ暗で、自分が寝てしまっていたんだとゾロは気づいた。
ぞしてロッカーを隔てた向こう側から何人かの声が聞こえてぼーっとしていたゾロの耳に飛び込んできたのは、それだった。

ガタっとロッカーから姿を現したゾロに驚いた3年生たちは慌てて帰ろうとしたけれど、その中でも中心にいた先輩の胸ぐらを掴みあげると、他の先輩たちが騒ぎ出した。

「お、おいロロノア!!手を離せ!!」
「…いいか、今の話…2度とするんじゃねぇ」
「落ち着けロロノア!!それに先輩に向かってその口の利き方…」
「今ここにいる全員、今の話を今後してみろ、口だけじゃねぇ俺は本気でぶっ殺す」
「お、お前…暴力振るったら…部活続けられなくなるぞ…た、退学だって」
「2度と口にするんじゃねぇ、わかったか」
「…わ、わかった」

普段は特に先輩と関わることもないゾロだけれど、礼儀も正しく言われたことは守り、剣道部の中でも成績はトップだったために周りからも一目置かれていた。
そんなゾロが人を殺しそうな目つきのまま自分たちの前に姿を現したことにおののき、ゾロの迫力に縮み上がり3年生たちは我先にと慌てて帰って行ったのだ。

ゾロはそのままサンジの家にむかった。
聞いた話を確かめたかったわけではない、サンジの顔が見たかった。ただそれだけだった。

「おい!!」

見もしないテレビをじっと睨んだまま、ずっと考え事をしていたゾロはサンジが部屋に戻ってきたことにも気づかなかった。
サンジに声をかけられ、ビクッと反応してみればそんな珍しいゾロを見てげらげらとサンジが笑う。

「なに、ゾロ大丈夫なわけ?具合悪いんじゃないの?」
「…違う」
「あー、そう。」

Tシャツに短パン姿のサンジが、ゾロの隣にドカリと座りタオルで頭をごしごしと拭いている。
ついたままのテレビに出ているかわいらしいアイドルに目をハートにさせながら「なー、かわいいよなこの子」などとはしゃぐ姿を見れば、なんてくだらない噂なんだろうとゾロはどこかほっとする。

「飲むか?」

サンジに渡されたのは、缶ビールでゾロはそれを受け取った。

「飲むなら泊りだぞ。おじさんには俺がメールしといてやる」
「親父のアドレス知ってるのかよ」
「メル友よ」
「俺はしらねぇ」
「っはは!親なのにか!」

サンジも自分の缶ビールを開けて「乾杯」と、ゾロの缶にコツンとぶつけてくる。
いつもならアルコールなど進められることはないのに、珍しいなと思いながらもゾロは一気に飲み干した。

「もう飲んだの?もっと味わえよな、ほらもうワインしかねぇよ」
「ワインでいい、よこせ」
「ください、だろうが。酔うなよな」
「お前じゃねぇんだ、大丈夫だ」

ウェイターよろしくサンジが立ち上がり、慣れた手つきでワインの栓を抜く姿は様になっていて見慣れたはずのゾロも感心してしまうほど。
サンジからグラスを受け取り赤いワインを注がれれば部屋中が甘い匂いに包まれた。

「…甘口か?」
「じじいが、こないだくれたんだ」
「へぇ、17の孫にワインねぇ」
「かっこいいだろ?」
「ああ、確かに」

サンジの残ったビールを取り上げ、ゾロがそれも一気に飲むと「ああっ」という非難の声が聞こえたが、用意されたグラスにそのワインを注ぎサンジに渡してやれば仕方ないな、という顔をされる。
サンジがそれを口に含み、舌の上で何かを確認しながら味わう姿を見ながらもゾロは再びそのワインさえも一気に飲み干した。

「お前ねぇ…ま、いいや」

あちー、と言いながらサンジは足をテーブルに投げ出すと少し酔っているのかニタニタしながらテレビを見ている。

「暑くねぇだろ、3月だぞ」
「風呂上がりだからだ」
「おい、なんか上に着ろよ。半袖に短パンって…風邪ひくだろうが」
「だってよー」

へへ、と甘えたように笑うサンジがゴロンとベットに横になればゾロはあきれて大きなため息をついた。

誰彼かまわずこうやって無防備なのだ。いつだってゾロが心配してしまうくらいに軽く領域を超えて懐に飛び込んでいっては誰とでもなじんでしまう。
だからバカな奴らが勘違いするんだ、自分に気があるんではないかと、愛してくれるんではないかと。





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