dream short

□拝啓
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頬を撫でるようにそよ風が吹く。
空は雲1つない青空で、その青空の下には人間と巨人。


今でも、巨人との戦いは終わってない。
空はこんなに清々しいのに、私の心はずっと曇ったまま。


「あなたが、いなくなってから」



今でも不意に、あなたを思い出すの。


「名無しさん」



聞いたことのある声。
声は間違えなく、


「マルコ、」


「ダメじゃないか、こんなところにいちゃ」


「どうして?」


「名無しさんの綺麗な肌が焼けちゃうよ」



すっと頬を撫でられる。
そよ風のように柔らかくて、優しかった。


「でもここは、マルコが、いなくなっちゃった場所だから、ここにお花を手向けたかったの」


「ははっ、ありがとう、嬉しいよ」



にっこりと笑うマルコは少し悲しそうだった。
何年前だろう、マルコが私の前からいなくなっちゃったの。

そんなことを考えると目に涙が浮かぶ。


「名無しさん、泣かないで?」


「泣いてなんか、ないもんっ」


「相変わらず強がりだな」


「これも、マルコのせいなんだから」


「・・・本当に、ごめん」



謝らないで、悲しそうな顔しないで。
そうやって言いたかったのに、今言葉を口にしたら涙が溢れそうで。


「・・・・っマルコ、私っ」


「・・・好きだよ、名無しさん」


「へっ」


「今言おうとしただろう?だから僕が先に言わせてもらったよ」



そっと抱き寄せられる。
ほんの少し、マルコの体温を感じた気がした。


「好きだ」


「・・・マルコっ、私も、好きっ」



やっと言えた、マルコに、ずっと言いたかった言葉。
マルコがいなくなってから気づいたこの気持ちを、ずっと、言いたかった。

ぎゅっと抱きしめ返すと優しく頭を撫でてくれた。


「これで、僕は、この世に後悔はない」


「消えちゃうの・・・?」


「うん、未練もないし」


消えてしまうなんて、嫌だよ。
叶わないって知ってるけど、わかってるけど。

これまで我慢してきた分、我が儘を言わせて欲しいの。


「やだよ、消えないで、私っ、まだマルコとしたい事いっぱいあるのにっ」


「ダメだよ名無しさん、我が儘言っちゃ」


「少しくらい、言ったっていいじゃないっ」



泣きながら言う私を少し困ったような表情で見つめるマルコ。
その表情は少したった後に解けて優しく微笑んだ。


「じゃあ一つだけ、お願い事聞いてあげる」


「本当に・・・?」


「うん、でも時間がない、早くしないと」



やっと気持ちが一緒だってわかった。
だから、そんなの一つに決まってる。








「キスして」



ぱっと顔が赤くなるマルコ。


「そんなっ」


「聞いてくれるんでしょ?時間ないんでしょ?」



一歩近づいて問いただすと少し狼狽えた。
けど、マルコは少し赤い顔で微笑んで頷いてくれた。


「わかった、」



目をつぶって、そう耳元で囁かれて素直に目を瞑る。
頭の後ろに手を回されて固定される。

そっとマルコの体温が近づいてきてもう少しのところで止まる。


「きっと、キスをしたら、僕はいなくなると思う」


「言わないでよ、そんなことっ」


「ごめん、でもこれだけは言っておきたくて」


「・・・なに?」











「愛してる」



ちゅっと優しいリップ音と共に、薄れていくマルコ。
次第に消えていくマルコは最後にこう言った。



「名無しさん、泣かないで?大丈夫、僕はずっと、名無しさんのここにいるから」



そっとマルコの手が私の心臓に当たった。
その手を握ると握り返してくれる。

でも、その力はだんだん消えていって、今ではもうわからない。






拝啓マルコ様、あなたは今どこで何をしていますか?



(最後まで私のそばにいてね?)
(名無しさん、なにしてんだ)
(ジャン)
(そうか、お前も花・・・)
(うん、マルコ、嬉しがってたよ)
(は?)
(ううん・・・なんでもない)



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