どうか、
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このところナナバさんの様子がおかしい気がする。そうゲルガーさんに問いかけると、
「前回の壁外調査で仲間がな…」
それだけ返されてゲルガーさんまでもが黙ってしまった。壁外調査で犠牲が出るのは毎度の事だ。それでもナナバさんは何時も凛とした、強い眼差しのまま私の前に現れる。“お疲れ様”そう笑顔で言って。そのナナバさんが。余程仲の良い人だったのだろうか。
そこまで仲の良い間柄の人はゲルガーさんくらいだと思っていた。お互い無理に深く踏み込まない私達は意外にも互いをまだまだ知らなかった。そういう事なのだろう。
きっと私よりもゲルガーさんの方が、死んでしまったその人の方が、実際の付き合いも長くナナバさんの多くを知っている。こんな時にどうしたら良いか迷っているだけの私なんて。役立たずめ。大好きなのに。大切なのに。彼の傷を埋める方法も、癒す方法も、何も分からない自分に苛立ってもどかしくて、何だかこっちまで凹んできてしまった。
苦しい。
自分の事でもないのに何故だか涙がこみ上げるほど胸が苦しかった。
「ナナバさん」
結局どうしたら何て良い案は浮かばず何時も通りのテンションでナナバさんの元を訪れた。
「やあ」
そう返したナナバさんはやはりどこか何時もと違った。ぼんやりと遠くを見るような目をしている。
「……ナナバさん、無理はしちゃ駄目ですよ」
「無理なんてしてないよ」
「嘘ですね」
「嘘じゃないよ」
じゃあ何で私の目を見てくれないんですか。何時もはこっちが困るくらいに真っ直ぐ見つめてくるくせに。何処を見てるんですか。私を透かして何を見てるんですか。
「ゲルガーさんから聞きました」
「何をだい?」
「大事な方が……亡くなったと」
「っ………あのお喋り」
一瞬だけナナバさんの笑顔が消え辛そうな表情が顔を出した。ほらみろ。やっぱり嘘つきじゃないですか。私を騙そうなんて、そうはいかないですよ。その化けの皮、剥がして差し上げましょう。
「ナナバさん、ちゃんと泣きましたか」
「はは、もう大分泣いてないんじゃないかな。毎回泣いてたらキリがないからね」
「…知ってますか。涙は感情が溢れると出るんですよ。だから嬉しくても悲しくても出るんです」
「へえ、そうなんだ」
「そうやって感情を調整するんだって、何かの本に書いてありました」
「面白い本だね。でもそれなら友人が死んでも泣いてない私は、その死を悲しんでないって事にならないかい?」
「だからそれが無理なんですよ。ナナバさんは無理して感情を抑え込んでるだけで、今だってちゃんと泣けるはずです」
「…それは…どうかな」
「泣く事は悪い事じゃありません。辛いときは泣く。そうしないと壊れちゃいますよ」
壊れちゃいますよ…ナナバさん。ゲルガーさんを守るために自らを省みないで。友人の死に心を痛めてるはずなのに強がって。もっと自分を大事にしないと、誰かを守よりも先にナナバさんが壊れてしまう。
そんなのは嫌だ。私はあなたに笑顔でいてほしいんだ。無理して作った笑顔じゃなくて、心から幸せであってほしいんだ。その為に私は此処にいるのだから。
「…どうして名無しさんが泣いてるのさ」
「っ…ナナバさんのせいでしょうね…ナナバさんがちゃんと自分で泣かないから私がこんな目に…」
「…頼んでないけどね」
「頼まれなくても出るものは出るんです…言ったとおりでしょ…」
「………」
「はは、やっぱ辛いんじゃないですか…?」
だって私はあなたの顔を見てるだけで胸が痛くて痛くて堪らない。分かった気になっているだけだとしても、私にはナナバさんが心の底で痛がって、辛がって、泣きたいのを我慢している様にしか見えないんです。
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