どうか、
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「こんな時に聞くのもあれですけど。もし私が死んだとしたら、その時もナナバさんは泣いてくれませんか」
「……本当にあれな質問だね」
「泣いてはくれないんですか」
因みに私は未だに涙をその目からポロポロと零しまくっている。だって止まらないのだから仕方がない。私だってこんな感情的になるつもりはなかったのだ。
「私は…もし、私がナナバさんより先に死んだとしたら…ナナバさんにはちゃんと泣いてほしいです…」
理由は単純。私が死んだんだから悲しめよ、それだけだ。とんでもないエゴだ。でも、やはりそうであって欲しい。私の存在がその人の一部でも占めていられたと、その人にとって涙分だけの価値のある存在だったのだと思いたい。その後は、私の死なんてヒョイと乗り越えてまた笑顔で居てくれれば良いのだ。
「それでも泣いてくれませんか…」
「……分からない…今もちゃんと泣けるのか。もう枯れてしまったんじゃないかって位、昔はよく泣いてたから」
「ふふ、いくらでも出ますよ。水分さえ取っていれば」
「ははは、そこだけ急に現実的だね」
どうやらナナバさんを泣かすのは予想以上に骨の折れる作業のようだ。私もいい加減泣き疲れた。目がショボショボして眠気まで襲ってくる。
「ねえ、名無しさん」
「…はい」
「さっきの質問なんだけど、名無しさんも私を置いて死ぬ気なの」
「………一応もう少し未来の予定ではありますが」
「何だいそれ」
「大丈夫ですよ。しばらくは付きまとうつもりですから。神様にも嫌われてるようですし、簡単には死にません」
「そう、」
“なら良かった”そう言ったナナバさんの声が頭の後で聞こえた。リヴァイ兵長の姿が一瞬脳裏を過ぎった私を誰も責めないでいただきたい。
「…ナナバさん」
「安心したらちょっと泣きたくなってきたんだ」
良かった。声に何時もの温かさが戻ってる。実はさっきまで冷たく拒絶されているように感じて少しヒヤヒヤしていたのだ。私達はお互いに踏み込む事をしないから嫌われたかと思ったのだが、何とかなったようだ。
「ふふふ、それは良いことです。思う存分泣いてください!私の胸で!」
「正確には肩だけどね」
「身長差!」
言葉通りにいかない自分の身長を若干恨めしく思いながらも、ナナバさんが私の背に手を回してきたので、まあ良いかと妥協する事にした。
耳の後ですん、と鼻を啜る音に今度はミケさんの姿が浮かび、さっきから色んな人が出てくるなと少し笑いながら私もナナバさんの腰に腕を回す。
ありがとうナナバさん。ありがとう。少しでもあなたが自分に素直になってくれて嬉しいよ。私も少しはあなたの側に近付けただろうか。ゲルガーさんのように、知らぬあの人のように。そうならもっと嬉しいな。
「っ……」
「…名無しさん、また泣いてるでしょ…」
「今度は嬉し泣きです…っ」
「忙しい子だね…」
ポフポフとなだめるように背を叩かれた。二人で抱き合いなだめ合い泣いてるって、かなりシュールじゃないだろうか…。……誰も居なくて良かった…。
ナナバさん。私には目的があるし、お互い調査兵団に居る限りずっとずっと共に生き続ける事は難しいだろうけど。それでも出来る限り私はあなたと共に居たいです。側じゃなくてもいいから。あなたが笑っている姿を安心して眺められるような未来に。
そんな未来をつくれますように。
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