どうか、

□03.5
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※ナナバside


ミケ書類を提出しに行く途中、少し前に親しくなった新兵と偶然会った。どうやらこれから昼食らしい。軽く会話をしそれじゃあ、と通り過ぎようとした所で相手に呼び止められる。


「ナナバさん、この後お時間宜しければお昼ご一緒しませんか?」


この後に予定が無いわけではないが、特別急ぎじゃない。ゆっくり昼をとる時間くらいはあるだろう。何故か眩しい程の満面の笑みで返事を待っている相手を不思議に思いつつ了解の意を伝える。そして今度こそ別れようとしたが、どうやらまだ続きがあったらしい。


「あと、会わせたい子がいるんです。ゲルガーさんが仰ってた例の子なんですけど」


例の子。その言葉に記憶を探る。ああ、あの話の。随分前にゲルガーから聞いた話だが、どうやら新兵の誰かが私に会おうと探しているたしい。その例の新兵とやらがいったい誰なのか、肝心の所を私は知らないのでこちらから会いに行ってやる事も、正体をつきとめる事もできず、気にはなっていたのだがどうしようも無いので半ば諦め忘れかけていたのだ。この言い方から察するにその新兵は未だに私を探していたのだろう。


そう…この子はその新兵と知り合いなのか。せっかくの機会だ。何が理由か知らないけれど私を探しているというその子に会ってあげようか。これもまた了解すると、「それでは先に行ってお席をとっておきますね!」と廊下を駆けていった。リヴァイが見たら埃が立つと怒りそうだ、等と考えながらその元気な背中を見送ってから私も踵を返した。


ミケに書類を渡し食堂に向かうと、窓側のテーブルに先程の新兵を見つけた。その前に小柄な少女が座っている。はて、私はその後ろ姿に見覚えがあるのだが、まさか彼女が例の子なのだろうか。昼時で賑わう食堂の人混みを縫って目的のテーブルに近付くと、例の子とやらは苦しそうに咳を繰り返していた。


……いったいこれはどういう状況?未だ咳こみ続ける彼女とそれを笑顔で見守る友人。今し方来たばかりの第三者の私はどうしたものかと前の二人を見比べた。そこで背を丸めて咳をする彼女の一方の手が水の入ったグラスを掴んでいる事にようやく気付く。なる程…何だ、ただ咽せていただけか。喘息や何かの発作だったらどうしようかと少し焦っていたのだが、杞憂に終わりホッとした。それならそれで、次にとるべき行動はこうだろうと私その丸まった背に手を添える。



「落ち着いて。ゆっくり息吸って、吐いて――」


そう声をかけながら背中をさすってやると、彼女は一瞬びくりと肩を震わせ恐る恐るといったように振り向く。座っている彼女と立っている私。その差を埋めるようにそろそろと顔が上がり、咳のせいで頬が上気した彼女の涙目と視線がかちあった。思った通り。やはりその顔は私の知っているものだった。


「大丈夫かい?」



―――名無しさん・名無しさん。何故だか彼女の顔は驚きの表情に変わっていった。




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