どうか、
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先程からこの敷地内に、まだ新しい調査兵団のジャケットを着てギクシャクとした態度の兵士をちらほら見かける。
そう、やっと待ちわびたこの日が、新兵達との対面日が来たのだ。対面といってもわざわざ場が設けられる訳ではなく、単に新兵達が訓練兵の宿舎から調査兵団に引っ越し作業を終え完全にこちら側の人間になるだけなのだが。
これからまた新兵達は集会があるらしい。召集をかける声が後方から聞こえている。あの声はネスさんか。また今回も新兵の世話係にされたのかあの人。私達の時もそうだったが、毎度大変そうだな。
そんな事をぼんやり考えながら歩いていると見知った新兵の背中を見つけた。どうやら相方は居ないようだが、何かあったのだろうか。
「どうしたのペトラ。もう新兵達は集まり始めてるよ」
「っ!あ…名無しさんさん!」
私の顔を見るなり素早く敬礼をするペトラ。ああ、懐かしい。自分も初めはどの程度畏まったらいいのか分からずに誰彼構わず敬礼をとばしていた気が…。
「ははは、私なんかに敬礼しなくていいよ!あんまりそういうの気にしないから楽にして」
「あ、ありがとうございます!」
固い。見てるこっちがむず痒くなる程に初々しいわ。
「で、何かあったの」
「あ、えと、落とし物をしてしまって…」
「それは困ったね。何を落としたって?」
「手帳です…。茶色の。中に手紙とか色々挟んだままなので…」
「それはそれは…」
もう誰かが拾っている可能性もある。が、新兵達は皆一様に召集されて行ってしまったし、今ここをふらついているのは数人。見つかりにくい場所ならまだ誰も目にしていない場合もあるか。
「なら私が探しておくよ。ペトラは集会に行かなきゃだもんね」
「そんな!わざわざ!」
「別に構わないよ。今ちょうど暇だったから。手帳はここら辺で無くしたの?」
「すみません名無しさんさん…。さっきまで友人とここに居たのでおそらく…」
「分かった。んじゃ、後は任せ…」
「おいペトラ!」
任せて!と言い終わる前に後から怒鳴られた。私が怒鳴られた訳ではないが、突然の大声に思わず肩が跳ねる。
「オルオ…」
ペトラが相手の名前を呼んだ。オルオ…貴様か…。ちくしょうビックリさせやがって。
「お前が探してた手帳ってのはこれの事か」
「あ!」
「ったく、この忙しい時に落とし物なんざ」
「ごめんごめん!ありがとう、今回は助かったよ!」
どうやらペトラの探し物は見つかったらしい。ペトラも“今回は”と言ったが素直に礼を述べて一件落着のようだ。
「良かったねペトラ」
「ご迷惑おかけしました!」
「いえいえ」
まだ私何もしてないし。ペコペコと頭を下げるペトラを笑って制する。そこでペトラの横に立つオルオがジッと私を見ている事に気が付いた。そしてビッと私の方を指差して言う。
「おいペトラ、このガキは何だ」
「はああ!?」
うん?ガキ?誰が?何が?一応辺りを振り返ってみるが誰も居ない。当たり前だ。何度も言うようだが新兵は集会に、それ以外の兵士も此処には疎らなのだ。
「お前だ、お前。何で俺達と同じ格好をしているのか知らんが、此処はお前みたいなお子様の居るべき場所じゃねぇ。さっさとママの所へ帰りな」
ペトラが慌てて制する声も虚しく、オルオは私の鼻先にまたもや人差し指を向けてそう言い放った。ほほう…この私をガキ扱い…。よろしい、ならば戦争だ。
「オルオ君」
「あ?」
「せぇぇいっ!」
「!?…何だ?」
「今、私は君に魔法をかけた。大事な台詞の途中で舌を噛む魔法だ。今すぐ私をガキ扱いした事を謝るなら解いてあげよう。今すぐだ。それ以外にこの魔法を解く術は無い。君は今後一生この魔法に苦しめられて生きていく事になる。さあどうする?」
「はあ?何言ってんだこのガ…」
ガリッ
「っ!」
「か…噛んだ…本当にオルオが舌を噛んだ…!」
「最後のチャンスだ。どうする?」
再度笑顔で問いかける。敢えて優しい声音で。さっきまで私をガキ扱いしていたオルオの私を見下ろす顔は若干青くなっていた。
「そ、そんな馬鹿…」
ガリッ
「〜っ!!!」
「す、凄い!凄いです名無しさんさん!」
「ふん」
「ち、ちくしょう!調子に乗んなよ!覚えてやが…!」
ガリッ
オルオは最後まで虚勢を張りつつ舌を噛みつつしながらその場を去っていった。そういえば集会の事をすっかり忘れていた。ペトラにも早く行くよう促すと、律儀にまた礼を言って去っていく。
はぁ…久しぶりにストレス発散した気がする!オルオで!この所仕事詰めで良い息抜きを探していたタイミングで出会えた二人に感謝をしながら私も踵を返した。
その後、新兵達の間で私が魔女扱いを受けるようになる事を、この時の私はまだ知らないのでした。
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