どうか、

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男女数名の賑やかな声が聞こえる方を建物の影からチラリと覗いた。


そこには今期首席のミカサ・アッカーマン、二番ライナー・ブラウン、三番ベルトルト・フーバーに六番ジャン・キルシュタイン、八番コニー・スプリンガー、九番サシャ・ブラウス、十番クリスタ・レンズ…。


(原作通りアニとマルコを除いて上位十名が勢揃い、か…)



早いものでペトラ達と出会い、我が友を亡くし、それでも時は流れ続けてついに104期生の入団まで終えてしまった。

もうこんなに時が経ったのか。一日一日を過ごすうちは長いように感じたが振り返ればあっと言う間だった気がする。

着々と近付く未来の足音に背筋が少し冷えた。


(いかん、いかん!シャキッとせねば!)


何があろうと私の決意は揺るがない。それに今更怖じ気づいたところで過去を全て無駄にしてしまうだけだ。そんな事は絶対に許されない。自分の為にも、死んでいった仲間の為にも。


軽く頭を振ってもう一度彼等を見つめる。


卒業早々に再度出現した超大型巨人と対戦。多くの仲間を失い絶望を体験した彼等も束の間の平和は年相応の無邪気さを見せていた。


サシャとコニーのふざけ合い。それを笑うライナーとベルトルト。お構いなしにクリスタにべったりなユミル。エレンを心配するアルミンとミカサに、そんな彼女を気にするジャン。


(やっぱ後輩は可愛いなぁ)


しみじみと若い彼等を見守ってそんな事を考えていると、自分も歳をとったのかと悲しくなる。

未だナナバさんからの扱いは変わらないが、私も立派に大人になっている……はずなのだ。


「お、名無しさんさんじゃねえか!」


離れた物陰からこっそり観察していたつもりが気付かれてしまったようだ。一番に私を見つけたライナー君の声に皆が一斉に振り向く。


「やあやあ皆、こんにちは」

「あー!名無しさんさん!」

「丁度良いところに!名無しさんさんも一緒にやりませんかこのポーズ!」

「コニー声がデカい。あと何度言われても私はやりませんからねサシャ」


あの妙なポーズのまま振り向いた二人にピシャリと答えると、返事が気に入らなかったのかぶーたれ始めた。私にあそこまではじける勇気は無い。


「名無しさんさん!」

「こんにちはクリスタ。いつ見ても可愛いね君は」

「ちょっと名無しさんさん、クリスタを口説かないでくれよ」


出ました女神クリスタとその宗徒ユミル。クリスタを抱き寄せるユミルにお前らはよ結婚しろと心の中で思った。


「名無しさんさんは女子にも男子にも人気だからね」

「え、何それ初耳だよベルトルト君」

「名無しさんさんは無自覚タラしだからな」

「おいこらそこの馬面黙らっしゃい」


爽やかな笑顔で周りを癒やすベルトルト君に、遠慮の無い馬面。ひでえ!と何やらジャンが喚いているが仮にも先輩をタラし呼ばわりした罰だ。


「名無しさんさん」


静かな声と共に小さくジャケットを引く感覚がして後を振り向いた。そこには予想通りの人物達の姿が。


「やあミカサ。相変わらず綺麗な黒髪だね。アルミンも一段と可愛くなってまぁ」

「は、はは…嬉しくないです…」


苦笑いを浮かべるアルミンだが私からすれば大真面目に将来有望株なのだ。だって彼からはナナバさんに似たオーラを感じる!きっと大人アルミンは素敵な男性になるだろう。ナナバさんみたいな!


「名無しさんさん、その…最近エレンは…」


くいくい、と再度ジャケットを引かれミカサに視線を戻すと彼女の家族、エレンについて訊ねられた。


そういえば彼女等はしばらくエレンに会えていないのか…。

巨人化する少年という事で危険視されたエレンはリヴァイ班の皆と旧調査兵団本部に所謂隔離状態だ。私は本部とリヴァイ班との連絡役で何かと頻繁に会っているが。


アルミンも気になるのか少しそわそわとしながら私の返事を待っている。


「この前会った時は元気だったよ。リヴァイ班の皆も良い人ばかりだから心配いらないと思うけど。近々また向こうに行く予定だから様子を見てくるよ」


リヴァイの単語に一瞬険しい顔をしたミカサだが、返事に納得し直ぐにいつもの表情へ戻った。アルミンも明るい顔だ。


三人は本当に仲が良い。血は繋がっていなくとも、他の誰よりも強い友情と愛情を感じられる。


エレンに何か用事があれば代わりに引き受けようと思って訊ねると、主にミカサからエレンの身を案じる内容の伝言を長々と聞かされ、記憶力の乏しい私がショート寸前に追い込まれたのは言うまでもない。




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