どうか、

□ミケさんに宣戦布告
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「さすがミケだね」

「ありがとう、助かったよミケ」

「やはりミケは頼りになるね」



カチッ


頭のどこかでスイッチが押されたような気がした。



日頃の様子を見ていてもミケさんとナナバさんは仲が良いと思う。立場的にはミケさんの方がやや上だろうが、二人の仲は端からでもゲルガーさんに匹敵する位に信頼し合っているのが感じられる程だ。


別に構いやしないんですよ?ミケさんもあの癖は少々いただけないけれど、それを除けばとても良い人だし。強いし優しいしデカいし。私だって上司としての彼をとても尊敬している。


しかし、だ。


私にだって負けられないし譲れないものがある。


ナナバさんを守るのはこの私!ナナバさんを守り守り隊隊長はこの私なのだ!これだけは、この役だけはナナバさんに心臓を捧げた以上負ける訳にはいかない!



という以上の理由をもって、私は今からミケさんに宣戦布告をしようと思います。



「名無しさん、何だこれは」

「果たし状です」

「何のだ」

「私のナナバさんに対するポジションをかけてです」

「?」

「取り敢えず!私は絶対に負けませんから!」

「………」


「……えーと、ここは“私のために争わないで”と言っておくべき…かな?」

「ナナバ、それは…」

「余計に燃えますね!」

「……火に油だ」

「あらら…」



というようにミケさんに宣戦布告してから早数週間。

兵長との特訓も以前より身を入れ、その間に行われた壁外調査でもそれなりに良い働きをした。普段の生活もなるたけ大人らしく見えるよう、落ち着いた振る舞いを心がけてはみたものの、周りからは元気無いの?の言葉で一刀両断。


当の本人ナナバさんも私が必死なのを知っているくせに、


「名無しさん、頬が汚れてる。じっとしてて」

「え、いやいや自分で!」

「いいから」


だの、


「名無しさんじゃ届かないでしょ」

「大丈夫です、頑張ります!」

「私がやるから待ってて」


だの、


「リヴァイとの訓練お疲れ様。何時も早朝から偉いね」

「えへへっ…じゃなくて!ナナバさんまた子供扱い!」

「これはもう癖みたいなものだからね」




うああああああああああん!

ちくしょう…何が足りない…ナナバさんを支える立役者としての何が……!!!


……身長か?


それは無理だ!成長期なんてとうの昔に過ぎ去ったわ!



「ミケさんあと50センチくらい縮んでくださいよ」

「無理だ」

「じゃあ私の身長を30センチ伸ばしてください」

「もっと無理だ」

「なんですって!」



はぁ…何をやっても変わらない現状にもう抗うのも面倒になってきた…。


というか、そもそも初めは周りを巻き込むつもりは無かった。一人静かにナナバさんを守り隊隊長としての品格を極めて満足していたのだが、ナナバさんがあまりにも私を甘やかし、その分ミケさんに頼るものだから。



「ナナバは充分お前を頼りにしていると思うが」

「そうでしょうか…何時も子供なのか動物なのか、そんな扱いばかりな気がします…」

「名無しさんは、ナナバにとってそれだけ大事にしたい存在なんだろう」

「そんな恐れ多い!」


私はナナバさんの為に犠牲になる兵士、それだけで充分なのに。


「おそらく、ナナバにとって名無しさんは守るべき後輩であって、守りたい仲間だ。お前が無意識にナナバを守って戦うように、あいつもただ己の大事なものを守りたい一心で戦っているだけだ」


そう言ったミケさんはとても優しい顔をしていた。なんだか我が子を見る父親の様な。


「それに、名無しさんは充分ナナバを支えている。勿論ナナバだけじゃなく、人類全てをな」


どうやら壁外調査時に、私がナナバさんを傷付けまいと必死に働いた事で自分の班や周りの損害が抑えられているらしい。ぶはっ!そんな馬鹿な!確かに頑張ってはいるが、私一人の成果など到底値しないだろう。まぐれか気のせいだ。


「自分を過小評価する癖は直ってないみたいだな」

「絶対何かの間違いです」

「フン、だが名無しさんはそれで良い。わざわざ俺と競うような真似をしなくても名無しさんは今の名無しさんのまま、これからも変わらずにいろ」


また鼻で笑ったかと思うと、そう言ってその大きな手で髪をかき混ぜてきた。止めさせようと私が暴れても更に力が込められるばかり。や、やめろおおお!抜ける!



「おや、名無しさんにミケじゃないか」

「ナナバさん!ヘルプです!う、うわああ助けて!」


タイミングよく現れたナナバさんに私は未だ頭をもしゃられながらも助けを求めた。私をミケさんの大きな魔の手から救うべく、こちらに近付いてきたナナバさんが私達を見やって一言。


「仲直りしたのかい?」


ミケさんの手の動きが止まる。私もボサボサな髪の間からミケさんを見上げてパチリと瞬いた。私が仲直り?ははは、そんなまさか。


「私とミケさんはずっと仲良しですよ!ね、ミケさん?」

「フン」



何時もの調子で笑い飛ばされてしまったが、見上げたその目はやはりどこか優しい気がした。




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