どうか、

□09
2ページ/3ページ



あれから暫く巨人と戦闘した後団長からの撤退信号が出た。終わった。終わってしまった。もう、間に合わない。


余計な手出しはしない、そう決意したのは自分なのに、胸は虚無感に占められていた。彼等の事だ、もしかしたら生きているかも…なんて。あるわけないのに。



「すいませんナナバさん、私ちょっと兵長の所に」

「え?ちょっと、名無しさんっ」

「すぐ戻りますので!」


全体が小休止をとることになったタイミングで私はナナバさんに声をかけた。先程の休憩で見つからなかった兵長の姿を見つけたからだ。


回収されていればあるはずだ…リヴァイ班の亡骸が。


ナナバさんの返事を聞かずにその場から駆け出す。すいませんナナバさん。やっぱり少し、少しだけ。

そういえば兵長は怪我を負っていたはずだ。少しでも役に立つならと途中で簡易の救護道具を借りて。


「兵長!」

「……名無しさんか」

「……その…怪我をなさったと聞いたので…手当てに」

「チッ…誰がそんな事を」

「まあまあ」


どうやら兵長はこの怪我を知られたくないらしい。どうせ壁に着いてしまえばバレるのだからどうでも良い気がするが、これも士気を考えた為。と、兵長の意地なのだろう。

一応あまり周りの目につかない所に移動して手当てをする。手当てといっても怪我がこの度合いじゃ殆どマシにもならないか。

それでも兵長が何も言わずに居てくれるのは、おそらく…私が本題を切り出すのを待ってくれているのだろう。


「…兵長……ペトラ達は、今何処に…」


酷な事を言っている、その自覚はある。それでも、亡骸は何処かと聞くよりは…。


「奴らは死んだ」


ああ、やはり。


「体も無い。さっき巨人に襲われた時に捨てた」

「え…?」


捨てた?“持ち帰れなかった”ではなく“捨てた”。兵長は確かにそう言った。

そういえば先程後方で巨人と交戦があったはずだ。そうか、その時に…。個体差はあっても巨人から逃げるには馬でも精一杯、荷があるとすれば尚更だ。


「そう…ですか…」


作業する手が自然と止まる。

ごめんなさいグンタさん。ごめんなさいエルドさん。ごめんなさいオルド。ごめんなさいペトラ。


私は……私が皆を見殺しにした…。


「あの時、あいつらは自分で選択をしこの結果に至った。自分の意志を貫いた。兵士なら、それで悔いは無いはずだ」


本当にそうだろうか。普段の彼等は全くそんな性格ではないと知っているけれど。それでも、恨んでいるのではないだろうか。私の選んだこの道を。

そう思っていても私には謝罪くらいしかできないのだ。


「気持ち悪ぃ顔すんな」


自嘲の笑みすら浮かぶ私を兵長はそう一言で一蹴した。


「酷いですね」

「お前の顔がな」

「また言いますか」


彼の方が辛い筈なのに気を使われている。今日の私は駄目だな。ナナバさんにもリヴァイ兵長にも心配されて。ポーカーフェイスはちょっとした売りだったのにズタズタだ。

でも少し心が晴れた。さすが兵長。厳しさの裏になんとやらだ。


「はい、できました」


巻いていた包帯を蝶結びして手当ては完成。うん、可愛い。笑顔で終了を告げると無言で睨まれた。ははは、散々女性の顔を馬鹿にしたお返しだ。


「それでは、私は戻りますので。兵長も無理をなさらず」


ペトラ達には会えなかったが手当ても済んだので私の用は終わりだ。此処に来た理由にもう一つ目的があったのだが…それはちょっと無理そうだ。

一言告げて立ち去ろうとしたら不意に呼び止められた。そして兵長が徐に懐から取り出した物を渡される。


「これは…」


“自由の翼”ジャケットに縫いつけられている調査兵団の証だ。


「これが奴らの生きた証だ…俺にとってはな」

「っ」


皆はもう居ない。手のひらに乗せられたそれからじわじわとその事実を実感し始める。少し前までこの翼は皆のもとにあったのに。それが今は私の手の中。彼等は、もう…。


「っ……兵長の…女泣かせ!」

「おい、誤解を招くような台詞は止めろ」

「だって…!」


だってだって!今のは完璧泣かせにきてるだろ!くっそこれだから兵長は!もおおおおお!


「こんな顔じゃナナバさんの所に戻れないじゃないですか」

「はっ元々そんな顔だろうが」

「辛辣!」

「知るか。俺はもう戻るぞ」

「えええ…ちょ、兵長ぉ…」

「情けない面で情けない声を出すな」


くしゃりと私の頭を人撫でして本当に兵長は先に行ってしまった。まったくなんて人だ。仮にも(自分で言ってて辛い)泣いている女性を置いていくなんて、ナナバさんとは大違いだ。


それでも、まあ良いかと思えてしまう理由は。

リヴァイ班の皆に会う事と兵長の手当てをする事。そして、少しでも兵長の気を紛らわせる事。この三つの目的が成せたからではないだろうか。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ