シリーズ
□傘
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(おいおいおい、誰だよ私の傘をパクったクソ野郎は)
中学二年の夏。夏休みまで残すところ数日という頃だった。
今日は夕立に注意!と朝のニュースで天気予報のお姉さんがおっしゃっていたので私はしっかり傘を持って家を出た。そして昇降口の傘立てにきちんとそいつを立てたはずなのだ。
放課後。お姉さんの予報はズバリ的中。ええ!?俺傘無いんだけど!と騒ぐクラスメートを心中で笑って通り過ぎようとした。した、ところで先生に名前を呼ばれる。
「名無しさん、悪いがこいつの補習に付き合ってやってくれないか」
そういう先生の隣には友人が申し訳の“も”の字も無い顔で突っ立っていた。
(まったくもって悪いぜ先生)
自分で授業をサボっておいてその補習に私を巻き込むなんて。今度何か奢らせよう。それから一時間程補習に付き合ってやり、部活に行くという友人と別れた。
からの、これだ。
さっきクラスメートを笑ったからいけないのか。でも私友人には優しくしてやったよね。そこはチャラじゃないんですか神様。
(走る…のか…)
一歩、二歩と屋根から出てみて……また戻った。うん。あの数秒間でなかなかの濡れ具合だ。家まで走ったとしてずぶ濡れは確定だなバーロー…。
(どうせならずぶ濡れになってそのまま風邪ひいて明日は学校休めますよーに)
そう祈りながら一思いに雨空の下に躍り出………ようとした。が、またもや未遂に終わる。
「ハルー!ちょ、待ってー!」
そう大声を出しながら後方から現れたのはさっきの傘忘れた発言をしていたクラスメート。と、その前を走るもう一人。
「だから待ってって!これ!ハルの傘!」
「俺にそんな物はいらない!」
「ダメだって!前もそう言って濡れたせいで風邪ひいたろ!」
「今度は大丈夫だ!」
「大丈夫じゃないから!」
「真琴が使えばいいだろ!」
「だからハルも一緒に入ればいいでしょ!」
何だただのリア充か。リア充など私には関係ない。爆発しろ。そう無関心を貫いてスルーしようとしたはずが、
「あ、名無しさんさん!お願いハル止めて!」
「えっ」
スルーしきれなかったー!何故私に頼む!そこにいたからか!そこにいたからなのか!
どうしたものかとあたふたしている間にも先頭を走っていた方が私の所まで来てしまった。そして何故だかそのまま私の手を取り走る。
「名無しさんも傘が無いなら丁度良い。このまま走るぞ」
「言ってる意味が分からないんだけどな七瀬く…ぅわっ!?ちょ、速い速い!転ける!」
「ちゃんと走れ」
「無茶言うな!」
「こらー!ハルー!名無しさんさんまで巻き込むなよー!」
全くだよ橘君。しっかり七瀬君を躾ておいてくれたまえ。君の親友はどうやら常識力が少々欠けているようだからな。
何故巻き込まれたのか。そんなの今更な事。私が生まれつきそういう体質だからだ。
あぁ、今日もまた幾つかの面倒巻き込まれてしまった。せめて明日は何もない一日を…。
雨に濡れるクラスメートの背を見ながら雨空に祈った。
(おい、橘。七瀬はどうした)
(風邪で欠席すると…ほらみろ、いわんこっちゃない)
(あっれー…私、超元気…)
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