シリーズ
□お手伝い
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「おいこら君達、これはどういう事かね」
「どうって、さっき言ったまんまだけど」
「掃除を手伝って欲しいって…」
「プールのな」
「聞いてないわ」
ちくしょうハメられた。私は降り注ぐ春の麗らかな日差しにひっそり顔をしかめた。
事の始まりは10分程前に遡る。
「名無しさん、ちょっといい?」
今日の授業も全て終わり、帰宅部の私はさて帰るかと鞄を持ち上げたところだった。教室の出口へと向かうその道にマコちゃんが、意図せずその大きな体で通路を遮って立っていた。
「名無しさんは帰宅部だったよね?今日は掃除当番でもないし、それで…もし良かったらさ…」
話を切り出したはいいがマコちゃんは何だか言いにくそうにもじもじとしている。一見、端から見ればこれは後に“一緒に帰らない?”とか放課後デートのお誘いの言葉が続きそうなものだ。
が、何だか嫌な予感がする。普段の経験からそう察知した私は、これから起こるだろうイベントを何とか回避せねばならない、そう瞬時に決意した。
「野生のマコちゃんが現れた。私は迷うことなく逃げるを選た…」
「こら、人の話は最後まで聞きなさい」
「………はい」
お母さんに怒られました。
話を聞けばマコちゃん達の掃除を手伝って欲しいのだとか。ハルは既に持ち場に行っているらしい。
何だそんな事か。案外簡単な頼みだったな。と思い
「仕方ない、引き受けよう」
そう返事をした後、私は即刻数秒前の自分の行いを悔いた。そりゃもう嬉しそうにお礼を述べるマコちゃんの目に怪しい光を見たのだ。嗚呼、さらば平穏な放課後。
そして冒頭に至る。
目の前には草やら蔦やらの蔓延るプール。塗装は禿げ、所々ひび割れもおきている。
「悪いが、私には荷が重かったようだ…力になれずすまないな…」
自分的に格好いいだろう台詞を残し颯爽とその場をあとにしようとした。した、ところでやはり無理だった。やめろハル!離すんだその右手を!
「俺は早く泳ぎたいんだ」
知るか!!!!
「せっかく創設案が通ったんだけど条件つきでね。このプールを使えるようにしなきゃいけないんだ」
「私関係ないよね」
「お願い名無しさんちゃん!人手が足りないんだよ!」
「うっ」
ついさっき知り合ったばかりの可愛い後輩、葉月渚くん。初対面でいきなりの名前呼びをしてきたが、彼のキャラ的にしっくりきてしまったのでスルーできた。
覗き込むようにグッとその可愛い顔を近付けられ、一瞬気持ちが揺らぎそうになった。それを抜け目なく見つけたハルが横で「いけ、渚!」とか言ってくる。だからやめろハル!
結論から言うと私はこの攻防に負けた。ちくしょう…ノーと言えない日本人の血なんてクソくらえだ!
(これで入部もしてくれたらなぁ)
(入らない!入らないぞ!)
(えー!名無しさんちゃん入部してくれないのー!?)
(は、入らないんだからなー!)