シリーズ

□合宿
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「 名無しさん先輩も合宿行きますよね?」

「え?」

「「「「え?」」」」


え?

もう一度言うけど、え?

何で君達は私が無関係な水泳部の合宿に参加することをさも当然のように思ってるんだ。ハル、そんな無言で目を見開かないで。


「 だって海だよ名無しさんちゃん!」

「行かないって、名無しさん先輩だって部員でしょう?」

「いや違うけども」


プール改修作業のち殆ど脅しに近い入部勧誘を受けた私だったが、あれだけフラグのような発言をしたにも関わらず入部だけは何とか回避できたのだ。自分でもビックリしてあの後一週間は何か良からぬ事が起こるのではないかと警戒心の解けない毎日だった。

だからといって何故か様々な事に巻き込まれるこの体質が治ったわけではないようで、主にこいつら岩鳶高校水泳部を主にささいな出来事にとばっちりを受ける日常は続いている。

マネージャーとして江ちゃんが加わり人数も足りた。その後に渚くんと同じ一年生の怜ちゃんが加わり選手もピッタリ。なのに何故、未だに私は構われ続けているのか。

今回も然り!というかもう事故として巻き込むというより意図的だよねこれ!



「暇だよ江ちゃーん」

「ゴウじゃなくてコ・ウです!」

「どっちでも可愛いから大丈夫だよ江ちゃーん」

「駄目なんです!ほら、砂でお城とか作ってみたらどうですか?」


何時ものように誘いを断りきれず結局着いてくることになったわけだが、私は部員ではないので一緒に泳ぐわけにもいかず、かといって江ちゃんが何やらやっているのを手伝う事もできず。というかぶっちゃけた話、私は所謂金槌というやつなので泳げないのだが。 要するに、私は水着に着替えただけで皆の練習風景を眺める事しかできないのである。


「暇」

「そんなにムスッとしないで。せっかく可愛い水着なのに勿体ないよ」

「それは水着だけが可愛くてそれを着た私は可愛くないと」

「そんなことないよ名無しさんちゃん!凄く似合ってるって!ほら、怜ちゃんなんて赤くなってるし!」

「ちょ、渚くん!」

「 俺は名無しさんはビキニの方が似合うと思う」

「は、ハル!」

「名無しさんちゃん着痩せするタイプみたいだしね!」

「なーぎーさぁー!」

「どうしたマコちゃん顔が赤いぞ」

「わー!!!」




夕食の後は私を含めた女子組は宿へ、男子組は外のテントへと分かれた。夜更かしは女の子の敵よ!と言って早々に寝てしまったあまちゃん先生を筆頭に江ちゃんも疲れたのかすぐ眠りに落ちたが、普段から夜更かし慣れし、しかも今日は一日ぼんやり浜辺で過ごしていただけの私には眠気など全く訪れて来なかった。


「散歩でもするか…」



表に出て上を見上げると綺麗な星空が広がっていた。空を仰いだまま海岸沿いをのんびりと歩いていく。周りに建物が無いと視界が開けて視界いっぱいに星空が見える。まるで星屑の海に落ちたみたい…。なんて自分には全然似合わないロマンチックな言葉がふと浮かんでしまい自ずと顔が熱くなった。恥ずかしっ!


暫くそうして歩いているとだんだん雲行きが怪しくなっている事に気付いた。宿から結構離れてしまったみたいだしそろそろ戻るか、そう思って踵を返してから数分後。薄暗い雲が星を隠してきたかと思うと風が強くなり雨まで降ってきた。ナニコレ嵐?


漸く出発地点付近に戻ってこれた時には全身びしょ濡れになっていた私。まあ当たり前か…嵐だもんな…。さて、この状態でどうやって部屋まで上がろうかと若干イライラしながら考えていた時だった。

ビュウビュウと鳴る風の音に紛れて微かに渚くんの声が聞こえた気がした。あの子達…まさかこの中で嵐恒例のごっこ遊びに興じているなんてないだろうな…。胸に妙なざわつきを感じ皆のテントを覗いてみれば、


「ちょ…誰も居ないんですけど…」


何処行ったんだよ皆…いや、私も人のことは言えないけど…。


「貴重品もそのまんまだし。お馬鹿共め。……はぁ、仕方ななぁ」


片方のテントをちょっとお借りして、布団と荷物を避けてどっこいしょ。何処に行ったのかしらないけど流石に無人は良くないもんね。お姉さんがお留守番しておいてあげよう。一部濡らしてしまうだろうが、お留守番の対価だと思えばね。この胸のざわつきは心配だとか不安だとか、そんなものじゃない…と思いたいが…。


「無事に帰ってこいよー」


微睡むなかで一言そう呟いて冷える体を温めるようにうずくまった。




(あれ、名無しさんちゃん何でハルちゃん達のテントで寝てるの?)
(ええっ!?)
(あああ!名無しさん先輩居ないと思ったらこんな所に!)
(あらまぁ大体)
(え、え?違う!それ違う!誤解だあああ!!!)
 

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