リクエスト

□麻貴さんへ
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「ハンジ!」
「ハンジさん!」

「おや、名無しさんにナナバじゃないか。そんなに慌ててどうしたの?」

「どうしたじゃありませんよ!」


全くもって言葉の通りなのである。今私の、そしてナナバさんの身に起きている異常で非常なこの事態はどう考えても見過ごす事はできない大事件なのだ。そしてこの事件を引き起こした原因が今まさに私達の目の前にいるこの人、ハンジさんだ。


「あはははは!見事に入れ替わってるね!大成功だ!」

「笑い事じゃないよまったく…」


“入れ替わり”ハンジさんの言ったこの言葉こそ私達の身に起きている悲劇。


時は一時間前に遡る。





朝起きて顔を洗おうと洗面台に立った私は、鏡を見てそりゃあ驚いた。何故なら鏡に映っているのは見慣れた自分の顔ではなく、眉目秀麗どの角度からも美しいナナバさんのお顔だったのだから。


「どういう事だってばよ…」


自分のものではない顔の写る鏡をただ呆然と見つめ零れた第一声がそれだった。

一瞬まだ寝ぼけているのかと思ったがどうやらそうでは無いらしい。何度瞬いてもナナバさんはそこに居るし、触っても感覚は確かに私が感じている。下を見ると足元が普段より遠くに感じた。

私がナナバさんに変身したのか…或いは互いに入れ替わってしまったのか。取り敢えずこれは異常な事態だ。そう思い至ったのは洗面台に立ってから既に五分程経過した後。

この状態の私がとるべき次の行動とは。混乱した頭で私が導き出した答えはナナバさん本人に会うことだった。私がナナバさんの姿をしていて、それなら本人である彼はどうなっているのか。

幸いまだあまり人が起きていない。今なら誰かに遭遇する前に彼の部屋まで行けるかもしれない。行動するなら早いうちが良い。そう思ったところでふと辺りを見回して気が付いた。

ここナナバさんの部屋じゃん!

急いで部屋を飛び出す。おそらく私の部屋に居るだろう彼がまだ眠っていてくれる事を切に願う。近頃の不規則な生活を思い返すと自室が綺麗な状態だったかは余り自信が持てない。今後は普段から綺麗な部屋を心がけよう、全力で疾走しながらそうリヴァイ兵長に誓った。


「失礼します…」


確かにここは私の部屋だが一応ノックをし声をかけてから入室。静かに体を滑り込ませる。良かった…そこまで散らかってない…。軽く整頓をしているともこっと中心の膨らんだベッドが目に入った。枕元からそっと覗きこむと、そこには何時もの自分が瞼を閉じ眠っていた。


私の寝顔ってこんななのか…


何だか妙な気分である。

と、そんな事を考えている場合ではなくて!これは予想的中という事で良いのだろうか。まさかこれで此方の私の中身がナナバさん以外…という最悪なパターンはできれば考えたくない…。


とりあえず起こすか…。


相手は自分の体。しかし中身はおそらくナナバさん。強引に叩き起こしたいがそういう訳にもいかず、なるたけ優しくお越しにかかる。うーん…何だか気持ち悪い…。


目を覚ました私に確認をとるとやはり中身はナナバさんで、現状を理解した彼の反応は私と似たようなものだった。驚きで固まるナナバさんなんてレア!

お互いに一度頭を整理して原因を探ってみたところ、昨日ハンジさんからお茶に誘われその場でハンジさんお手製の紅茶を飲んだ。そしておそらくそれが原因だろうという。まぁあの人ならやりかねない…普段の色々からして…。

こうした結論に至り私とナナバさんは入れ替わったままの状態で朝一番ハンジさんの部屋を突撃した。勿論この解決方法を聞き出す為に。


そして上記に戻る。




「それで、どうやったら私達はもとに戻れるの?」

「えー戻っちゃうのー?せっかく上手くいったのにさー」

「戻りますよ!というか戻らないとですよ!」

「そりゃまあそうか…ちぇ、残念」


一応事の深刻さは理解してくれた様だが非常に不服そうなハンジさん。良かった、案外簡単に解決しそうだ…というか分かってるならこんな馬鹿な真似やめていただきたい!


「で、方法は?」

「知りたい?」

「知りたいです」

「本当に?」

「焦らさないでよ」

「仕方ないなぁ」


やけに溜めますね。幾ら私が早めに起きたといってもあれから暫く経つ…ハンジさんは徹夜の流れでそのまま起きていた様だが、そろそろ周りも起き出す頃だろう。逸る気を抑え込みながらハンジさんの次の言葉を待った。


「この状態を本に戻すにはね…」


言葉が区切れて沈黙が下りる。妙に重々しい雰囲気だ。お願いしますよハンジさん!これ以上の面倒事は勘弁してください!

「これを戻す方法は…」


ゴクリ。俯いていたハンジさんが顔を上げキラリとレンズが光った。その奥の目と視線が交わる。


(あ…これはヤバい…)


目があった瞬間、直感的にそう思った。見てしまったのだ、私は。見てしまった…ハンジさんの瞳に宿る好奇心の炎を…。


「…簡単さ、






キスをすればいい」






ほうらみろ。




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