宝物


□ある夏の日のこと (フリリク 小説)
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『ある夏の日のこと』

右の蟀谷(こめかみ)から一筋の汗が流れたのを、ぼんやりする頭で中学生のトランクスは感じ取った。

意識を取り戻したことで再びあの感覚が呼び覚まされる。

何とか眠れていたのに、とんだ災難だ。

(暑い……)

掛け物もかけずに仰向けで自室のベッドに横たわっていたが、右耳の中へ汗がするりと入り込む予感がし、やむなく起き上がってベッドサイドに腰かけることにする。

額に乗せていたお湯の染みたタオル、もとい水を浸したタオルが途中で滑り落ち、着ていた白のランニングシャツと黒の短パンを濡らした。

(あ、少し入ったかも)

しかし、彼の予感は外れた。

そのまま横になっていれば入り込まないはずであったが、起き上がったことによって汗の軌道は大きく修正され、そのまま耳の穴へ吸い込まれていった。

耳の奥に身震いするような違和感を覚え、ブンブンと頭を右に何回か振る。

何度目かで汗粒を追い出すことに成功したらしく、ある瞬間、すっと違和感が消えた。

働かない頭を振り回したせいだろうか。心臓の鼓動に合わせて脳の血管も脈打った。

(うぅ……早く収まってほしいな、このドクドク血液が流れる感覚。ただでさえ暑くて気が滅入りそうなのに、もっと気持ち悪くなりそうだ)

トランクスの住む家は、西の都、カプセルコーポレーションを設立したブリーフ博士の研究所と同じ敷地内にある。

彼の祖父が運営するこの会社の収益は右肩上がりで、そのためトランクスの一家は裕福過ぎるくらいに裕福だった。西の都で1、2を争う広大な敷地を有す邸宅であった。

よく考えると、裕福であるならば、当然、自宅設備は高性能なはずで、冷暖房も完備されているはずである。

しかし、彼の家の冷暖房は完全に機能していなかった。

それどころか、電気供給が完全に停止し、また、コンセントからの電気供給を必要としない扇風機や冷蔵庫、冷凍庫の類は暑さですべて故障する有様であった。

冷蔵庫・冷凍庫に入れていた食材はすぐに傷み捨てざるを得なかった。

自宅のハイスペックな器材たちは無用の長物として存在していた。非常用電源も暑さに負け、全く作動しない。

自社製品のコンセントにつながなくとも使用できる扇風機や冷蔵庫・冷凍庫の類は連日の暑さで飛ぶように売れ、在庫はなかった。

都中、どこの店を探しても冷却グッズは品薄で手に入れることは難しかった。

というわけで、トランクスは殺人的な凶暴な暑さに、水を浸したタオルという何とも頼りない武器で対抗するしかなかったのである。
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