Novel

□halo
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“バカなもの”というものは、一瞬で隙をつくらせ注意力を乱せさせる、厄介な、もの。
 どうして今なのかと問えるほど呑気に居られる状況でもないのに。
 それは、現れた。
 真っ直ぐな、髪が上空の乾いた風にふれてサラサラと揺れている。
 そいつは、この日を教えた予言者だ。
 静止した時のなか、うっかり者の異星人が漏らした名前に、だから――かと謎が解けていった。

 またひとつ、機体が飛んできた。
 青空を遊覧する観光客は、この緊迫感に隙をあたえる道具。
 堂々と悠々とこちらに旋回し、機体の中から手を振って、笑顔を見せる。
 ああ。バカが居ると思った。
 あの女はなぜこうも、自ら危険地帯に踏み込もうとするのか。何を見ようとするのか。
 
 こんな所まで――。

 良く晴れた青空の下、だれにも容赦のない強い光が放射される。無差別に、殺傷能力をみせつけただけのエネルギー波は目をつぶし、岩を砕き天地を巻いて爆風が起きる。
「始まった」
 ゾクリ、と髄に広がった感動は戦闘民族の血を蠢かせる。
 なのに、地球人の常識をわめき行動を止める者がいる。
 その辺りは、母親の細胞らしい。そして、厄介事を持ち込む体質もよく似ている。呆れるほどに。
 未来の俺はもう居ない。オレの血は見当たらない。

 三者三様の青が揃うと、とどめのようなものを食らった気になる。
「なんだ、それ」
 脳内で一言、つぶやかずにはいられないものが辺りに居て、自然に視線を送られている。
 赤く染まったままの肌を目の前で生めかしくしならせ、上目遣いで自分に寄り添って来るブルマの、その、まっすぐな髪が揺れるのを。
 久しく見てもない、柔らかな動きが俺の脳内を覆いはじめる。
 ああ……言わんこっちゃねえ。

「いったいどういう事だ! あの人造人間が―」
 声を出せ。
「だから―」
 詰め寄って、近づいて、その動く赤い唇へ。
 手を伸ばし、手の中に、その聡明な青を、ずっと。
「そんな」
 と言う、おかしな言動が哀れな煩悩をストップさせ引き戻す。
 困惑気味の語り口はこうだった。
 俺がやった奴らを知らず、奴が来たことで次元が乱れ状況が変わったと……、そして結局は女の推測のほうがしっくりくる。
「ブルマ」
「え? えっ……とね」
 泣きべそをかいた物体がこちらを見ていた。細い腕で抱えられる程の小さい奴。
 紙切れの中のそれは、今よりももっと小さなものだったが。

 たった一瞬で、
 記憶する内容が合致し、こいつらの親子の証明が取れた気がした。
 臆病風に吹かれながら、じりじりと待ち、策を練ろうと、カカロットとカカロットとうるさい所もまた同じ。
 同じ血を持ちながらも、混血ゆえのぼやきは早くも尻尾を巻いている。現実は呆れるほど、自分に意味すら持たなかった。

「てめえに闘う資格はない。一生、やってろ」

 空を仰ぐ――。
 薄い雲が広がって太陽にボンヤリと輪がかかった幻のようなそれは、この日を暗示しているかのように青い色の中で存在を強くし己に語る。
 孤高なりとも退くことを許さず、血の純潔を受け継ぐのはこれからも一人だと。



【終】
2017.4/23‐4/24

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