わるいこと
□受縛
1ページ/3ページ
「まだ食べるのか?」
そんな風に、アタシより数十倍も食べるこの男に言われたのは初めてだった。
「別腹って法則が復活なのよ」
そう文句を言うのには理由がある。
張った胸の不快な感覚とイライラする神経の高ぶり。そう、月いちのブルーデイが迫っていた。多少の前後はあるも、毎月来てくれてホッとするが、元々の体質をマイナス変換される、嫌な期間。
そんな日は一緒になんて居たくないのに、この男はやってくる。自分の体に正直に向き合うように。
避妊をして! と飛ばされた令に何だそれはと言うので、ゴムの存在を教えるも、「エリートであるこの俺がそんな間抜けな事になるわけなかろう」と自信満々に言うもんだから、トランクスの事を茶化すと喧嘩になった。
大事なことなのに聞かない態度に腹が立ち、菓子を貪って今に至る。
「装着した姿が嫌なんでしょ? なにその子供みたいな理由。大人の男の癖にちょっと考えものよね」
今も向きあう背と背は、心の砦を守りながら、窺い合う。
「明日は会議で早いし、お風呂入って寝るから。もう、襲わないでよね!」
と言えば、誰がだっ、と返る怒号に青息で、聞こえる声を流しながら、ダストボックスに破れたパジャマを投げこんでいた。
「よしよし、追って来ない」
辺りを確認してからしばらく経つと、ブルマの気分はホッとした。お気に入りの香りの中に足を入れる。体にくまなく湯を通せばご満悦気分まっしぐらだ。それから鼻歌を歌いながら部屋に出るも……夫は、自室に戻ったか本当に姿がなかった。
ブルマは、和らいだ気分に少しだけ肌恋しくなるも、喧嘩をぶり返しそうだと大人しく眠ることにした。
このあと、ベッドで眠る自分を男が見ていることも知らないで安眠に至れていた。
「ちっ」
と舌打ちが響いた。
その理由とはブルマの寝相である。きっと彼女は気付いてはいない――というほどの荒れようで、酷い。
そしてまた、部屋が通年適温に調整されているからこその格好は下着だった。
上品なワインレッドのランジェリーは白い肌を妖艶に魅せる色で、そろそろと這うように寝返りをうつ度に、色香を漂わせた。
バカらしくなる程の停滞時間は緊張を生み、ベジータにのし掛かる。薄い布を介して開かれて行く白い足の奥。仰向けでもツン張りある形のよいバストの影に息をのんでいた。
こんな事をする為に来たわけではない。ただ避妊について一言くらいな気持ちで舞い戻っただけ。
なのに――
その場を立てそうになかった。
頭のなかで、こんな事やめろ、恥だ! そう警鐘が響くとしてさえ、感化された僅かな呼吸の荒さが証拠だろう。
ベジータは下っ腹の張り付きに思わず、ズボンを下げると、ぴたりとした生地は既に盛り上がって苦しそうに山を作っていた。
男は自然な動きで、熱く固く変化した物へ指を伸ばしていった。小さく引き締まった口から霞むように漏らされる吐息を落とし、意気り立ちはじめたそれを静かに手の中に収めると上下に動かし始めた。
見つからないようにと気配を消す、そんな緊張感のなか、手はもう一つ下の、ふっくらと丸みを帯びた部分を、きゅっきゅっともみあげる。手中に転がる二つの精の感触を快楽に感じながら。
俺は何をしているのか。
女の部屋で。女の前で。
ブルマがが目覚めたらどうする!?
ーー張り詰める緊迫感にベジータはたまらず息を止めた。まだ今なら引き返せるし、間に合うと理性は叫ぶのに。
するとそんなとき、悩ましげな声を上げたブルマはブランケットの波間から、そうっと足をひらきはじめた。そうして自らの肌を探りながら滑る白い指は、ある一点に落ちてゆく。
無意識の中で夢をみるように……柔らかく自慰を始めたのだった。
白い指が薄いピンクのショーツの縁から見え隠れする度に布に写るゆびの形がいやらしい。そして何よりも、指間に見える沁みが広がる様に……。
「な……なんてことだ」
そんな、芽生えを押し黙って見ることになろうとはと息を殺すベジータだった。
自分の女が、こういった事に耽ることは薄々ではあるが知っていたが、ソレを目の当たりにする事など――ないと思っていた。
男の枯れた口内はカラカラだ。突然の事に躊躇されていた手技は誘われるよう再開され、吐息を短く切りながらリズムを奏で、己を動かしていった。
「んっんん……あ」
ブルマは、自分の好きな部分を攻め始めた。
男は、白い指が布地の下で蠢いていることを確認すると、ニイっと気味悪く笑う。どういった方法でそこを愛撫しているのか……と。
熱い息を、汗ばむ肌をなだらかに膨れる腹筋を従え、ものの数秒で腰を反らす様に。
ああ! と甘い、甘い、切ない声を出し顔をしならせて泣いている。
ベジータは、見続けた。
夫婦のことならば、ことさら珍しいことでもない話ではあるのだが、これは違った。
ブルマは、ベジータとの行為ではこんな風に声を出さない。意地のように我慢しているのか、いつも赤く身を震わせ、切迫感のなかで溜まり兼ねたものを吐息として漏らしてゆく。
だが今は、さらけ出す。消え入りそうな吐息を絞り出し、耳に抜ける声は秘密めいていた。
膝を立て腰をそらし続ける彼女の、脚間から見えるピンクの下着はもう薄い色を残してはいない。湿りつづけ水分を吸収した薄い布は重たくなったように尻の方へ弛んでいる。
目を這わせば這わす程のいやらしさに肉柱の鈴口は、つばを生む。