リクエストもの
□頭脳明晰性悪イケメン×強気真面目おっさん
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「あー…なんで俺がこんな役割…」
はぁ、とため息を吐くと、目の前の白衣の男が困ったように笑う。
「すいません、僕がひ弱なばかりに、いつも機械の搬入手伝ってもらっちゃって…」
「いや、すまん。ヒサさんは何も悪くない」
「僕の方が年下ですから、さん付けなんてやめて下さい」
「…そういうわけにもなあ」
目の前の白衣の男…名前はヒサ。年齢は24。白い髪に、灰色の目を持つ、全体的に色素の薄い、優男といった感じのイケメンだ。
その上、顔がいいだけじゃない。
もし俺が独身じゃなけりゃ、子どもでもおかしくないほど歳が離れているが、俺よりも高い「階級」持ちだ。
この世界は、「階級」というものが存在する。
階級は、ようは身分制度だ。1〜5で、数字が若いほど偉いっていう、わかりやすい制度。
階級によって世の中の待遇も違うし、なにより大きいのが、下の階級の人間に言うことを聞かせられる、という部分だ。
階級はスタートが5で、そこから100万の国への寄付で4、さらに500万で3、1000万で2、1になるにはとてつもない金額が必要らしい。
目の前のイケメンは、なんと階級1の人間だ。
それほど金持ちなら、なぜうちのような中小企業で技術部に所属しているのか…不思議で仕方ない。
俺はこの会社の直接の社員ではなく、警備会社から派遣されてる警備員だ。階級は4。趣味がないため寄付とやらをしてみたが、世の中の待遇がすっかり変わった。
そんな警備員の俺が、わざわざ機械の搬入を手伝う理由はないのだが、階級1のヒサが階級3の人事部の人間に人をまわしてもらえないか頼んだところ、人手不足なのを理由に、階級をかざして俺に無理矢理ヒサの搬入を手伝えと命令してきたのだ。
そんな訳で、仕方なしにちょこちょこ手伝っている。
「ありがとうございました。助かりました!」
「警備員たくさんいるから暇なことが多いし、気にしないでくれ」
そう言って、俺は部屋を出て、階段を降りる。
玄関ホールまできて、何か不正に持ち出していないかを確かめる機械を通過しようとした。…その時。
ピピピピピピピピ
大きな音が鳴り響く。
「『持ち出し』だ!捕まえろ!!」
「なっ…俺は何も持ち出してなんかない!」
他の警備員に取り囲まれ、あちこち触られる。
「おい、あったぞ!」
1人の警備員が、俺のポケットから見覚えのないメモリカードを取り出した。
「他の会社のスパイか!?」
「そんな訳ーーー」
言い終わる前に捕らえられ、地下室に捕らえられーーーすぐに『落とし人』を呼ばれた。
落とし人ーー罪を犯したものの「階級」を下げる、国の組織だ。
例え、会社のデータを本当に盗んでいても、落とし人を呼ばれるなんてーーそう思っていたら、落とし人のうちの一人が口を開く。
「よりによって、国との取引のデータを盗むとは。他国の間者か?」
「国…?そんなの知らない…」
何故こんな事態になったかは理解したものの、俺はもちろんそんな取引のデータに触れる機会なんてあるわけがない。
「最新の嘘発見器が反応している。この反逆者め」
思わず、何かの間違いだと叫ぶと、嘘をつくな、と頬を殴られる。
口の中が切れ、血があごをつたう。
「お前の階級を2つ剥奪する」
「2つ…?俺は階級4だ」
1つさげたところで5なのに、2つ…?と思っていると、落とし人が口を開いた。
「お前は今日から階級6ーーーー奴隷だ」
「な…っ」
「この企業を脅かした分、この企業に隷属してもらう」
「そんな、俺は何も…!」
かちゃり、と、無情にも銀色の首輪が俺の首にかけられた。
「ぁが…ぁあっ…!!」
突然、身体中に激痛が走る。
「命令に逆らえば、激痛が走るように設定されている。せいぜい、命令にさかわらないことだ」
涙で滲む視界の中、落とし人が帰って行く姿が見える。
ーーー俺は、今日、ヒトである権利を剥奪された。