親父のみ不健全短編

□絶対権力
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「お疲れ様でした〜」
「うん、お疲れ様ー」

音を立てて扉が閉まる。
たしか、今の子は課で一番可愛いと言われている子だったっけ。

そんなことを考えながら、パソコンに文字を打ち込む。

目が疲れてふと画面から顔をあげると、窓の外は真っ暗だった。
会社の中はがらんとして、残っているのは俺だけのように見える。

…そうだったら、どれだけいいんだろう。

俺がこうして最後まで残っているのは
あいつのせいだ。

「どうしたんだ?」
「…課長」
「二人の時は名前で呼べといったはずだが?」

こいつはこの課の課長。
認めたくはないが27で既に課長という職についている程に仕事ができ、
そして女子にもモテているらしいが、
俺には信じられない事だ。

「…ほら、名前を呼べと言っている」

知らないんだ。
みんな、こいつが

「…貴方とこんな関係を結ぶのはもう嫌です」
定期的に俺を残業させーー無理矢理に犯す変態で、ゲイだということを。

「それは君が決めることではないよ」

こいつの言うとおりだった。
俺には決める権利は無い。

一ヶ月前ーーー俺の作成した取引先に送る書類の内容にミスがあり…大きな損失が出てしまった。

その時に、全て処理し、俺のクビを取り消したのはこいつだった。

若くで社長に絶対的な信頼を置かれているこいつは、
あのミスから、俺のクビを切る権利を握る事になった。

「拒否するなら、君を首にしたっていいんだけど」
「…っ、それは、」
「無理だよね
もう40歳でーー次の仕事なんて見つからないよ」

悔しい事に
また、ニヤついているこいつの言うとおりだ。
俺は今無職になるわけにいかなかった。

「君の娘さん、病気なんだっけ」

俺の娘…奏は、こいつの言うとおり病気だ。
治るかどうかもわからない重い病気だ。

奏のために、俺がクビになるわけにはいかない。

どうしても抗えない現実に、俺はただ手を強く握ることしかできない。

「早く呼べよ、純二」

荒くなった口調に、体が勝手にびくりと反応する。

怒らせたら、どんなひどい事をされるか解らない。

「…春人…」
「よく出来ました。
さぁ、仮眠室にいこう?」

その疑問系に対する答えは、「はい」しかない。
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