記憶の無を彷徨う。
どこからかから出た気泡は記憶を映し蘇らせる。
世界の記憶があった。
記憶の泡を割って深く思い出した。
世界の誕生と始まりを…。
人はまだ始まってはいないらしい。
無の中。ひときは大きな泡の中に鷲、虎、龍、狼、子供が居た。
「セカイをつくろう」
子供は銀色の狼に手を置いて唐突にそういった。
世界がこの時始まった。
子供は年相応なのだが、表情がなく、声も静かだった。
「簡単に言うね〜。でも…まっ、わかった。僕は陸を創るよ」
「じゃ俺ぁ海かぁな」
「…私は空だ」
「俺が時間…で、羅刹様が生物」
陸は金刀比羅宮
海は海竜王
空は迦楼羅
時間は銀狼
生物は子供…即ち羅刹
それぞれの担当はアッサリと決まり、言霊と同時に形成される世界。
泡の周りは海竜王の創った海になり、羅刹の創った生物が泳ぐ。
「いくつ創るんだい、羅刹殿」
「…いっぱい」
「いっぱいって…」
金刀比羅は羅刹の創った人の姿に成った。笑顔を浮かべ羅刹に尋ねる。
他も人の姿に成る。
「だって、だってセカイはいっぱいあって……」
「そりゃあ答えになってねぇよ羅刹サマぁ」
「……だって」
もともとの性格故か責め立てるような言葉になってしまう海竜王に手を繋いでいた銀狼は海竜王を叱る。
「まぁ世界は出来た。羅刹様、私は行きます。」
「うん、歴史を創る時になったらまた呼ぶね」
「はい」
迦楼羅は元の鷲の姿に戻り泡を抜け出し空へ上がった。
それをきっかけに泡の中にはもう誰もいなくなっていた。