二次創作

□君だから
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『あ…』

俺が見ていたドラマの音につられるようにして、黒子っちが分厚い本から顔を上げた。

床の座布団に座っていた俺は、振り返るようにして後ろのソファーに座る黒子っちを見る。

けどその視線はテレビに向いたままだ。

『この俳優さん…』

「あ、この人っすか?」

画面に映ったのは今人気の演技派俳優。

愛嬌のある笑顔でたちまち有名になった。

「爽やかっすよね」

俺も憧れなんすよ、と言えば、黒子っちは無表情のまま、頷いてみせる。

『僕もこういう人、好きです』

「……」

何と?


俺はいそいそとソファーに上がり、黒子っちの方を向いたままそこで正座。

鼓動がばくばくと速くなる。

落ち着け落ち着け。

「…時に、黒子っち」

『( 時に…? )』

訝しげに眉を寄せた黒子っちは、ちらり、俺を見た。

「あ、あ、あんな感じが、好き…?」

ゆっくりとテレビに向かって指を差した。

すると俺を見つめていた瞳はそのまま腕を伝い、またテレビへ。

『おじさんはちょっと…』

「え?あ、いや、違くて」

俺も急いで振り返れば。

指差した画面は場面が変わり、なんかちょっと髪の毛が切ない感じのおじさんが映っていた。

「だから、さっきの…!」

詰め寄るように言えば、ああ、と短く黒子っちは言った。

『さっきの俳優さんのことですか?』

「…はい」

そう言うと、また黒子っちの視線は本へと落とされる。

睫毛が影を作り、何だか知的さに磨きがかかったように見えた。

いや、国語は毎回素晴らしいんすけど。

そしてぽつり、と。

『まあ、好きです』

「…」

今、荒波にもまれて海をさまよいたい心境である。

もう一度見たテレビには、また俳優さんが。

にこりと笑う顔を見つめつつ、じりじりと画面へ近付く俺。

『目、悪くなりますよ』

「……」

もはや画面の目の前。

黒子っちの声に反応することも忘れ、その顔や雰囲気をじっくり観察した。

『黄瀬君』

「……」

『( 無視…? )』
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