第一図書室
□hit記念
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最後に人と話したのはいつだったか。
珍しくそんなことを考えながら街を歩く。
オレは人と関わるのが苦手、いや大嫌いだった。
自分の思っていることを素直に相手に伝えず、あまつさえ気にくわない人の行動に勝手に不満を抱く馬鹿なやつらが。
偏見に埋もれたこの世界が。
本当に大嫌いだ。
そのせいか、オレはいつしか人と話さなくなった。
こんな身勝手なやつらと話すことなんてない。
そう考え今日まで過ごしてきた。
街行く者はオレを奇異の目で見る。
「ほらあの人。頭どうにかしてるって」
「誰とも話さないんでしょう?」
「ありえないよ」
もう今は聞きなれてしまった言葉を頭に入れないようにして、いつもの川辺へ行く。
川辺へ行ってすることは、土手に寝転がって鞄から本を取りだし、イヤホンを付けて音楽を流すこと。
これはオレのいつもの日課だ。唯一この時間だけがオレに喜びを与えてくれる気がする。
しかし、今日は違った。
いつものように川辺へ行くと、見慣れない青年がいた。
身長はオレより少し低いだろうか。黒いパーカーに背中越しに見える色素の薄い猫毛。
ここはあまり人の目につかない場所だから、人がいるのは珍しい。
でも別に興味はないので、いつものように本を読み出す。
すると、
「ねぇ?」
イヤホンは方耳だけ付けているので、声は聞こえる。誰か来たのか?
「あれ?ねぇってば。そこの方耳イヤホンして本読んでる赤ジャージのお兄さん。」
猫のような大きな目が特徴的なその青年は、間違いなくオレの今の姿を言い出した。
「…オレ?」
無視しようとしたが、つい返事をしてしまった。
「そうそう。何読んでるの?ねぇそれ面白いの?」
…何?コイツ馬鹿なのか?
初対面なのに慣れなれしすぎる。そう思いながら苛立ちを孕んだ目で睨む。
「…はあ?」
「あぁ、いやぁ、なんかすごく見いってるから…そういう本が好きなの?」
飄々とした青年の表情からは何も読み取ることができない。
「あんたに関係ないだろ」
「うっ。ちょっと興味があっただけだよ。お兄さん冷たいねえ」
「あんたと話すことなんかないだろ」
「ま、まぁ確かに…そうかも…?ってそうじゃなくてお兄さん、毎日ここへ来るの?」
「…んなこと聞いてどうすんだよ」
もしかしたらこいつはオレ以上にイレギュラーで風変わりかもしれない。
「え〜いいじゃん教えてくれても。」
「…毎日来る」
「ふーん?じゃあ僕も明日から毎日来ようかなぁ!」
「オレが嫌だ」
「ひどい!」
段々こいつと話してるのがアホらしくなり、読書を再開する。
「お兄さん、ニヒルなんだねぇ」
ニヒルなんて言われたのは初めてだ。「変わってる」とか「普通じゃない」とかは何回も言われてるが。
「あ、僕もういくよ。じゃあまた明日も話そうね、お兄さん!」
オレが「明日も来る」ということを拒否しようと顔をあげると、もうそこに青年の姿は無かった。
「…変な奴」