第二図書室

□変な奴だ
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「あれ、コノハ……?」

道を歩いていると、もう何度聞かれたかわからない質問が俺に投げ掛けられた。

「…あ?」

振り返ると、そこには確か……「カノ」っていったか。そいつが眉間に皺を寄せてこっちを見つめていた。

こいつは確か欺く蛇だった……はずだ。笑顔に欺いてるつもりらしいが俺にはそれが効かない。残念だったな猫目。

「ん……う〜ん?ちょっと違う……か?」

笑顔のままこちらに歩み寄る。

こいつ馬鹿か。持ち前の観察癖丸出しだよ。

「少なくとも俺はコノハじゃねぇ。あと人のこと観察すんのやめろ」

俺がギロリと睨むと、明らかに動揺しているのが見てとれた。

「え、えぇ……?君一体何者……?」

途端に欺くのを止め、苦笑混じりに俺を見つめる。

「さあな。……少なくとも人間じゃねえよ」

最後に俺がぼそっと呟くと、カノがぴくっと反応した。

「……へぇ、怪物?」

目を真っ赤にしている。……今度は無表情かよ。ってことは涙を浮かべてるか死ぬ程ニヤけてんだろうな。

「まぁそんなところだ。あ〜……俺帰るから。じゃあな」

そう言って背を向けて歩くが、やはりこいつは頭の回るのが早い。『目を合わせて』頭の中を覗いてみたら、こいつは「俺が何者か」「何か知っているのか」等の疑問を脳内に巡らせていた。

「……怪物って言っただろ?」

ニヤけながら振り向くと、カノはまたもぎくりとした表情で俺を見返した。

「……参ったね。君セトみたいな能力も使えるのかぁ……ますます不思議」

今度は能力無しに微笑んだ。

「不思議でも奇怪でもなんでも構わねえが、一応忠告するぞ。お前早く帰らねえとえらい目に合う」

これは俺自身が一番知っている。早く帰れ。去れ。消えろ。

本気で睨む。俺は俺自身が大嫌いだった。

俺は「長くいた人を食う」みたいな癖があった。食うというのはカニバとかそういうのではなく、率直に言えば殺してしまう。それを抑えられずに、今まで何十人も殺してきた。

俺は死のうとしたこともあったが、それは無謀に過ぎなかった。どれだけ痛みを感じようと、どれだけ血を流そうと、眠りから覚めればいつもと変わらぬ風景がそこにあり、体は何事もなかったかのように自由に動かすことが出来た。

それが嫌で、今までずっと人を避けてきた。避けることでしか、俺が俺自身を守れる術と自信がなかった。

「……自分と話した人を殺しちゃったり、とか?」

睨んでも、こいつは顔色を全く変えない。……そうか、こいつはそういう奴だった。

「ふん、勝手にそう考えてればいい。だが、早く帰れ。帰らないんなら……」

「うん、わかったよ。…またね、×××」

最後が聞き取れなかったが、俺の名前を呼んだという認識でいいのだろうか。それを聞こうと顔を上げた時には、既に人混みに紛れて見えなくなっていた。

……勝手な奴だ。
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