ジンユウ

□FOUND DEAD...
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逃げよう――――

その時、唐突にユウヤはそう言った。

「何もかも届かないところまで」

幸せを確信した瞳は期待と光で少し煌めく。 ジンはその煌めきに魅せられて頷いた。二人が 一緒にいられるのなら。それだけを条件として 口にして。

イノベーターという過去の呪縛からも。 世界を救った英雄というレッテルからも。 そして、神威大門への入学依頼からも。

全て忘れて、解き放たれて 自由に。

「それじゃあいこうか」

二人は誰にも行き先も告げず、ふらりと逃走し た。それが逃走という名の旅に出る、一番の方 法だった。一番、自分達が自由でいられる方法 だったから。誰にも何も言わずに、姿を消し た。

***

「どこ行ったんだろうな」

「もしかすると田舎に帰ったのかもしれません ね」

何度目になるか、分からない会話。 バンは知っている。 二人は永遠に帰ってこない。 ある意味でヒロは正しい。 示された結果は残酷なまでに明確で、 一筋の希望と望みさえ許さなかった。

だが、バンはそれを悪いこととは思わない。 今まで凄まじいとしか形容しがたい人生を送っ てきた二人がそんな逃走を終幕として望むのな ら、その望みを叶える権利は存分にある、と。 多分、痛みは一瞬。 あとにあるのは、きっと溺れるような――――

***

強風が心地よい。 周りには何もなく、下には清流が流れている。 激しく、海に向かって。 澄み切った空気は今までの旅を終わらせるのに ちょうどよい空間を作り出していた。

「ねぇジンくん」

ジンは応えない。ただ、自らの胸の辺りに顔を 埋めたユウヤの髪の毛に、そっとキスを落と す。

「今までありがとう」

くぐもった声に無言のまま頷くと、ユウヤはジ ンから少しだけ、手は繋いだままで距離をとっ た。

「これからもよろしくね」

「こちらこそ」

突風が吹く。

ユウヤの瞳が煌めいて 寸分遅れて身体が傾いだ。 握る手に力をこめる。

また強い風が吹き抜けた。

春を前に花弁が舞う。 楽園はすぐそこに――……

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