黒バス短

□雨空の願い事
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ずっと隣で見守ってきた。
彼には勝利しか許されず、そして彼自身がどんな重い物を背負っているか。

小さい頃は、守ってあげるべき弟のような存在だった。
彼は頭もよくて運動もできるけど、でもその分、とても脆いように感じたから。

『私だけは、傍にいなくては』、と。

……いつからだろう。
お互いが大人に近づくにつれ、彼が私を必要としなくなったのは。
必要としているのは、私だけになってしまったのは。

小さい頃からずっと隣で見守ってきた。
だんだん彼の後ろを歩くようになっても、ずっとその背中を見つめてた。

好きだった。大好きだった。
変わってしまったのは、彼だけじゃない。
彼が悪いんじゃなくて、こんな感情を抱いてしまった私が悪いんだって。

………だから。
彼に、『特別な人』ができた時も。
もう、彼の隣にいるのが私以外の女の子なんだと知った時も。

……何があっても笑顔でいようって、決めたの。






「………あー寒い」

ベッドの上で縮こまりながら、ちらりと窓の外を覗き見る。
ザアザアと空から叩きつけるように降る雨は、今にも雹になりそうなほどに冷たそうだ。

寒々しい今日の天候は、どこか私の気持ちとリンクする部分があって思わず苦笑した。

「征十郎は、今頃デートか…」

こんな天気なんだ、中止になってしまえと心の中で何度思っただろう。
嫌な女、と軽く呟いてズキズキと激しくつくような痛みを訴える胸に気づかないふりをした。

私と彼は、所詮幼馴染みという関係だ。
それ以上でも、以下でもない。

…………私としては、彼のことを一人の男として意識して好きだったけれど、彼にとっては私という存在は本当にそれしかない女なのだろう。

『恋人が、できた』

私の家でくつろいでいた時に何気なく呟かれたその言葉に、他意はなかったように思う。
私がどれだけその言葉に衝撃を受けたか、彼の知ったことではないのだから。

『な、なんっ、なんで!!?誰!!?』

『隣のクラスの図書委員の子だよ。大人しそうな感じの女子だ』

『…なんでいきなり、』

『…告白されたから、かな。特に意味はないけど』

……じゃあ、もし最初に私が告白していたら、征十郎は私と付き合ってくれたのだろうか。

どこの誰とも知れない女子に、ずっと好きだった彼をとられるなんて、そんなの耐えられないのに。

『そっ、か…。先、越されちゃったかぁ』

『……なまえだって、』

『ん?』

『…いや、なんでもない。とにかく、そういうことだ。』

『…ふぅん。まぁ、幸せにやんなよ』

………この時の私はちゃんと笑えていただろうか。
彼の幸せを願うのは本当。
でもその横に私がいないのは耐えられない。

なんて矛盾。なんて自分勝手。
そんな自分勝手で一晩中泣いて、次の日は桃ちゃんや黒子くんに心配されて、征十郎の前では笑って。

私は、一体何をしているの。

だからこそ、学校に行くのは辛かった。
中々いいタイミングで冬休みに入ってくれて、本当に安堵していたりする。

そうしてしまえば征十郎は部活で忙しいし、会わなくもなるだろう。

…まぁ暇になれば私の家に入り浸るのはあまり変わらないので、意味ないといえばないのだが、心持ちとしては大分楽だ。

楽から奈落に落とされたのは、昨日。

『明日映画に行く』

『ふぅーん、誰と?』

『彼女と。』

……あそこで泣かなかった私を、誰か褒めて欲しい。
酷い顔であっただろうが、本を読むフリを決め込んだおかげかバレなかったんじゃないかな。そう願う。

『…そ、いってらっしゃい』

『あっさりだな』

『一体私になんて返して欲しいんだよ』

呆れたように笑う。
笑うフリにももう慣れた。嘘をつくのももう慣れた。
全ては、彼の傍にいるために。

『大体、私が何言っても聞かないでしょ』

『わからないじゃないか』

『……じゃあ、別れてって言ったらどうすんのよ』

…好奇心で尋ねた言葉だった。
絶望するくらいなら、絶たれるような望みなんて先に潰えてしまえばいい。
そう思って問うたのに。

『…それが、なまえの望み?』

『は?馬鹿言わないでよ、冗談だってば』

…あまりにも、真剣な顔でそういうから。
一刀両断してほしかったのに。
切り捨てて欲しかったのに。

そんな顔するから諦められないんだよ。
そんな態度とるから期待するんだよ。

「………ばぁかー」

この場にはいない彼にそう呟いて、ベッドの上で膝を抱える私に自嘲した。

「ほんとに、馬鹿野郎」

雨はまだ、やまない。



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