捜査室

□独占欲
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俺はよく、ワーカホリックだと言われる。

決して誉め言葉ではないのは自覚しているが、別段気にとめてもいない。



実際この仕事は好きだ。
はっきりと
形で成果がわかるのもいいのだろう。

穂積のように現場に出て捜査、というより証拠品や血痕などとにらめっこしている方が生にあっているのだろう。



寝食削って…というのは決して楽ではないが、やめたいと思わないのは、好きなのだろうと思う。


大学のときも言われたが、のめりこむタイプなんだろうな、俺。



「あ、櫻井さん」


細野の声に振り返ると、翼が顔を出していた。
手にはいくつかのビニール袋が握られている。
きっと差し入れだろう。



「わぁ、いつもお気遣いすみません」



太田はそれはもう嬉しそうに、翼の持つビニール袋をのぞき込んだ。


「あ、小野瀬さん、お疲れさまです」


俺の視線に気づいた彼女は、ぺこりと会釈した。



元々彼女はこういう気配りをする子だけれど、俺とつき合うようになってからは、ますます気遣ってくれるようになった。



「ごめんね、気を使わせちゃって」



「いいえ、これくらいしかできないですから」



何言ってるんだろう、この子は。

こうやっていつも自分のことを気にかけてくれる存在があるってことが、どんなに嬉しいか。

あぁ、もう言葉で伝わらないなら、公衆の面前で抱きしめてしまいたい。



そんな余裕のないがっついた姿は見せたくないから、俺は平静を装う。



「翼は夕食は?」



「今日は実家に顔を出すので、そこで」



「そっか」



本当はもう少し顔を見ていたいところだけれど、そもそも彼女が実家を出て寮に入ったのは、俺に要因がある。

そう思うと、彼女の両親(特にお父さん)に悪くて、あまり引き留められない。



「あ、そうだ」


彼女はにこやかに自身の上着のポケットに手を入れた。



「これ、お一つどうぞ」



彼女が差し出したのはコーヒー味のキャンディ。


「口寂しいときにいいですよ。」



「へぇ」


彼女はにこやかに続けた。



「藤守さんが、くれたんです」



「…へぇ」



頭の中にその光景が浮かんだ。



「…翼」



「はい?」



「そのキャンディまだ持ってる?全部欲しいな」



「え?あ、ありますけど…」


彼女が差し出したキャンディを受け取ると、俺は自分の引き出しを開けた。



「翼にはこっちをあげるね。甘いの好きでしょ?」


そういうと、彼女の手のひらにフルーツ味のキャンディを乗せる。



きょとんとしている彼女に俺は耳打ちをした。


「今二人っきりだったら、口移しで食べさせてあげたのに、残念」



「お、小野瀬さん!」


笑顔で彼女を見送ったあと、俺はおもむろにコーヒー味のキャンディを口に入れた。



「お、御大…なんでそんなに勢いよくかじって…」



「………」



俺は思いっきり音をたてて、コーヒーキャンディを噛み砕きながら、ふと思った。



やっぱり俺はのめりこむ性質らしい。




FIN.

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