捜査室
□たいせつ
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いつもの居酒屋に俺たちは来ていた。
今日は翼は交通課の同期たちと女子会というので、文字通り男だけの飲み会だ。
俺たち捜査室のメンバーに加え、
小野瀬も追加したのが、今日のメンツだ。
いつも通り、女将が適当に出してくる食事をどんどん片づけていると、やがて如月が口を開いた。
「そうそう、今日こそは室長に聞きたいことがあるんですよ」
「吐いてもらいますよ!」
「あん?」
如月に続いて、藤守まで言い出す。
「室長、彼女出来たでしょ!!」
勢いづけて如月の言った内容に、俺は口をあんぐりと開けた。
何を言い出すかと思えば、そんなことか。
「俺たちを無理矢理飲み会に連れ出さなくなったし、一緒にジムに行っても、あっさり帰るし!」
藤守と如月のバカバカしい息巻いた言葉に、小野瀬が肩を振るわす。
「お、お前…くくっ案外わかりやす過ぎ…はははっ!」
うるせーっつの。
そりゃ仕事の忙しいのは変わらないんだから、翼との時間を持とうと思ったら、それ以外の時間が減るに決まってるじゃねーか。
つーか、絶対お前らだって、彼女ができたらそうだっつーの!
「室長とつき合うって、なかなか奇特な人だね。というより、人間?」
「こら小笠原!室長もこらえて!!」
憎たらしい口をきく小笠原に乗りかかろうとしたところを、明智が慌てて止めにかかった。
「俺たちは合コン行ってもなかなか彼女できないのに、なんで室長にはできるんだろう」
小野瀬がよけいな口を開こうとするのを、テーブルの下で蹴り倒して阻止する。
「相手がいるって言えばさ」
如月が続けた。
「翼ちゃんも相手いるっぽいよね」
「ぶっ」
焼酎の中に沈んでいた梅をうっかり飲み込みそうになる。
「こないだだって、やたら浮かれてるから、どうしたのかと思ったら、誕生日プレゼント見に行くんだって言ってたよ」
想像するだけで抱きしめたくなる。
誕生日の夜は、一生懸命夕食を作ってくれたっけ。
くそ…。
あいつの可愛さ、取り締まれ。
「相手ってどんな奴なんだ?」
「年上だってことしか教えてくれなかったんですよね」
明智たちの会話を聞きながら、俺はつい視線を泳がせていた。
なんとなくこの場でバレるのは気恥ずかしい。
「翼ちゃんのことだから、変な相手ではないと思うけどさー」
変な相手の訳あるか!
「真剣な奴に決まってるだろ」
「そういう奴でなきゃ許さんって言うんでしょ?もう、すぐ保護者ぶるんやから」
「保護者どころか…ぐぇ」
またもやよけいな口を開こうとする小野瀬に制裁を加えておく。
が、奴はめげずに続けた。
「案外年上の男の手慣れたあま〜い言葉に騙されてなきゃいいけどね」
「てめぇと一緒にすんな!歯の浮くような言葉なんか言わねーよ!」
思わず声を荒げてしまったが、すでにできあがってきている奴らには、ちゃんとは聞こえていなかったようだ。
いつものごとく、女将に追い出されるようにして、居酒屋の外に出た。
酔っぱらってる藤守たちは嫌がる小笠原を連れて、次の店に移動するようだが、俺は隙を見て道を別れた。
翼の話題が出たからだろうか…。
なんとなく
あいつの顔が見たい気がする。
つき合いたてって訳でもないくせにな…。
苦笑しながら、俺は携帯をポケットから出した。
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