相手自由夢@
□いつかふたりで
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《page1/嫌なヤツ》
辛かった受験が終わり、晴れて希望の高校に入学が決まった。
横浜南開成高校、ここが今日から美優の青春の舞台となる。
「えっと・・・あたしのクラスは・・・」
掲示板に貼られたクラス配置を見上げる。
「あれ?もしかして美優ちゃん・・・?」
どこかで聞いたことのあるような、懐かしい声が背後から聞こえた。
「ち・・・稚奈ちゃん!?」
声の主は小学校6年の時に美優と同じクラスだった河原稚奈だった。
「うっそ・・・まじで!?」
「キャー!久しぶり!クラスの人の名前見て、もしかしてって思ったんだけど!!」
「え!?もしかして同じクラス!?」
「だよだよ!!」
「やだちょー嬉しいんだけど!高校誰も友達一緒じゃないから寂しかったんだよぉ!!」
「小学校以来だよね、こんな話すの!」
「中学では一度もクラス一緒にならなかったしねぇ・・・」
「まぁでも改めて、私も友達誰も高校一緒じゃなくて寂しかったからさ、仲よくしよ!」
「うんうん!なんかほっとしたぁw」
「うるせぇよキャーキャーよぉ」
「え?」
美優と稚奈が盛り上がっていると、斜め後ろから不機嫌そうな声がした。
「あ・・・すみません」
稚奈が美優の袖を引っ張り、謝罪した。
『誰?』
『わかんない。でも怖そうだね』
二人はヒソヒソと話しながら自分たちのクラスへと向かった。
6月───
美優は稚奈と新しくできたクレープ屋に行く約束をし、公園で待ち合わせをしていた。
「ちょっと早く来すぎたかな」
待ち合わせの時間までまだ15分ほどあった。
美優は近くのベンチに座り、清々しいほど晴れた空をぼぅっと眺めていた。
「ねぇねぇ、今時間ある?」
「・・・?私ですか・・・?」
見知らぬ少年が美優に声を掛けた。
「うん。今暇?」
「えっと、友達を待ってて」
「キャンセルして俺とどっか行かない?」
「え・・・いや、あの、」
「ランチ奢るからさ。行こうよ」
ぐい、と美優の腕を引き寄せ、強引に美優の体を立たせた。
「わりー、待たせたな」
「ひゃ・・・っ」
急に逆方向に引っ張られ、何者かの腕の中にぐいと引きこまれた。
「・・・んだよ、男待ちかよ」
ブツブツと文句を言いながら、少年は去って行った。
「・・・あ、あの、ありがとうございました」
美優は素早く何者かの腕の中から退いた。
「あんた、隙あり過ぎ」
「・・・あ・・・」
ふ、と呆れたように笑みを浮かべた人物を見て思わず声が漏れた。
「何?」
美優の反応に訝しげな表情を浮かべる。
「あの、もしかして、」
目の前の人物は、入学式の日にクラス配置の張り紙の前で出会った人物だった。
『あの嫌なヤツだ・・・!』
美優が言うことを戸惑っていると、イライラした口調で彼が続けた。
「もしかしてなんなの?」
「あ、あの、横浜南ですか・・・?」
「なんで知ってんの」
彼は美優のことを覚えていないようだった。
「私、1─3の櫻井です」
「へぇ・・・同じ高校だったんだ。俺は1─4の藤ヶ谷」
『隣のクラスだったんだ・・・』
よく見ると彼の顔立ちは、目鼻立ちの整った、所謂イケメンの部類だった。
『へぇ・・・こんなイケメン隣のクラスにいたんだ・・・』
美優が思わず見とれていると、プッ、と彼が噴き出した。
「アホ面してんじゃねーよ。ブス」
「ブ・・・!!」
グサリと突き刺さった彼の言葉にカッとなった瞬間、
「美優ちゃぁぁぁん!!遅れてごめん!!」
稚奈が息を弾ませて美優の元に駆け寄った。
「あ・・・」
稚奈は頬をほのかに染め、美優の陰に隠れるようにして寄り添った。
「藤ヶ谷君、こ、こんにちは」
稚奈は恥ずかしそうに藤ヶ谷に声を掛けた。
「ん?誰?」
「あ、あの、私、美優と同じクラスの河原です」
美優は稚奈が藤ヶ谷の名前を知っていることに驚いた。
「美優ちゃん、藤ヶ谷君と知り合いなの?」
「あ、いや、今しつこいナンパから助けてくれて・・・」
その後の藤ヶ谷の発言にイライラしていた美優は、軽蔑したような表情で藤ヶ谷を見た。
「さっきのあいつの女の趣味、俺には理解できないけどね」
吐き捨てるように悪態をついた後、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、藤ヶ谷は去って行った。
「くっっっそムカツク!!」
ダンダンと足を踏み鳴らしながら悔しがる美優に、オロオロとする稚奈。
「なんであんな意地悪言うのかな・・・」
「知らん!性格悪いんだよ!」
プンプンと怒りながら去っていく後ろ姿にガッデムポーズをする美優だった。
「美優ちゃんたら・・・」
困ったようにはにかむ稚奈。
「つうかさ、なんで稚奈ちゃんあいつのこと知ってんの?」
「知らないほうがおかしいって!藤ヶ谷君は校内でも1、2を争うイケメンで、ファンも多いんだよ!噂ではファンクラブもあるとかないとか・・・」
「ゲェ!まじで!?あんな嫌な奴が!?」
「確かにツンデレって言われてるけど・・・」
「ツンデレなんかじゃないよ!あれはツンツンだよ!」
「プッ!美優ちゃんおっかしいw」
「もうあんな奴どうでもいいわ。クレープクレープ!!」
美優は嫌な記憶を吹き飛ばすようにクレープをバクバクと頬張るのだった。
つづく♡