相手自由夢@

□First Love
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私には、昔でいうガキ大将のような、いつも子分のような友達をたくさん引き連れていたずらを繰り返しているような幼馴染がいた。


同級生や、周りの子供達は彼らを怖がっていたが、小さな頃から一緒に育った私と彼は、割と仲が良かった。というか、多分お互いに好意というような、ぼんやりとそんなものがあったと思う。


『大人になったら俺はこの世界を変える!!』


そんなことをしょっちゅう言っていた。そんな彼をいつも見ていた私は、どこか憧れというか、本当に彼ならできるんじゃないか、とワクワクしていた事を今でも思い出す。


中学に入り、思春期を迎えた私達は、どちらからともなく愛し合うようになり、毎日一緒にいるようになった。周りからは不良と付き合うな、と強く反対されたが、私は彼が好きだった。彼の取り巻きも、私を慕ってくれた。


「姐さん、今日は和希さんと一緒じゃないんですか?」

「姐さんやめてw今日は会ってないんだよね…どこ行ったんだろう」

その日の夜、私の二階の部屋の窓がカツン、と鳴った。合図だ。

窓を開けると、ボロボロになった彼が、ニヤリと笑って下でピースサインをしていた。

「ちょ、え?どうしたの!?大丈夫なの!?」

隣町の不良に絡まれて、口の先が切れた彼が、こっそり私の部屋に侵入し、パタリ、と私の膝に倒れこんだ。

「へっへ、全員地面に沈めて来たぜ」

「…バカ…また絡まれちゃうよ」


ぎゅう、と、少し癖のある黒髪を抱き締めると、イテテ、と、笑った。


「あ、ご、ごめん」

「もっとやって、胸が当たって気持ちいいわ」

「アホ!!」


パシリ、と軽く頭を叩き、ポロポロと流れる頬の雫を拭き取った。


「なに、泣いてんの?」

「泣いてない!」

「ふーん、じゃこれ何?」


ペロリ、と私の頬を舐め、キスをした。


「ぎゃ!ちょ、やめて!」

「泣くなって。お前が泣くとなんか、ここが変になる」


彼は自身の心臓部に手を当て、俯いた。


「あ、うん、ごめん」

「謝んな。泣かしたの俺」

「和希に何かあったら、あたしどうしたらいいかわかんないから」

「…うん」


彼は小さく悪かった、と呟き、私を強く抱きしめた。


「なんかお前、ちっさくなったな」

「和希が大きくなっちゃったんだよ」

「お前は大きくなんねーな」

「うるさい」

「怒んなって。かわいーの。俺の中にすっぽり入る感じ好き」


なし崩しに抱かれた彼の腕の中は、いつものように温かかった。




別々の高校に入り、それぞれの友達や生活環境が変わると、段々と会う回数も自然と減って行った。


ある日、借りていたCDを返しに行った私は、彼と知らない女の子が愛し合う場面に立ち会ってしまった。


「さいっっっってい!!」


私はそんな言葉を吐き捨て、彼の住む集合団地の階段を一気に駆け下り、その場を逃げるように立ち去った。すぐさま彼が追いかけて来て私の腕を掴んだ。

「離して!」

「違うんだ!好きなのはお前だけだって!」

「好きでもない子とあんなことするの!?もっと酷いよ!!」


彼の手がゆるりと私の腕から離れた。


「嘘じゃない、ホントに、お前だけなんだ、俺には…」


うなだれる彼の頬を思い切り平手打ちし、私は一言も発さず、一度も振り返ることなく立ち去った。彼はもう追いかけてこなかった。









それから10年後、結婚が決まった私に、可愛らしい電報が届いた。私が小さな頃から大好きだったキャラクターの電報だった。


『結婚おめでとう。幸せになれよ』


彼からだった。美化された思い出ばかりが脳裏を駆け巡り、切なくなった。彼の近況は人伝いに伝わっていた。


『なんかテロリストの頭みたいなことしてるらしいよ』


私は衝撃を受けつつも、彼らしいな、と納得していた。何も変わっていない彼に、どこかホッとしていた。


数年後、彼の率いるテロリスト集団が国会を襲撃し、大事件になった。SATの攻撃を受け、あえなく鎮圧され、彼らに射殺命令が下り、全員の命が尽きた。



悲報を受け駆けつけた私は、頭の中の整理がつかないまま彼の遺体が安置されている部屋へと通された。厳重な警備の中、彼の遺品が置かれたテーブルが視界に入った。


「これは…」

「この男が持っていた物です」


この男、と呼ばれた彼の遺品の中に、血の付いた古い写真が一枚紛れ込んでいた。


「なんで…」


そこには、無邪気に笑う小学生の私と彼がいた。


「好きな女の子ですかね。テロリストでも恋はするってことです」


見張りの警備員が、切なげに笑った。


「これ、貰ってもいいですか」

「ご家族に許可をもらってください」


私は彼の両親に、写真を貰い受けた。


くしゃくしゃになったそれを出来る限り平らにし、カバンに仕舞い、改めて彼の遺体の側へ行き、冷たくなった体を抱きしめて泣いた。綺麗な顔をした彼は、今にも起きて、久しぶり、と口が動きそうだった。




それからまた数年後、スーツ姿の青年が私を訪ねて来た。


「姐さん、お久しぶりです」


懐かしい呼び方をしたそのスーツ姿の人物は、亡き人の昔の仲間だった。


「あんまり変わっててわからなかったよ」

「俺は和希さんに最後まで付いて行けなかったチキン野郎です」

「何言ってんの。あんたにはあんたの人生があるんだから」


そう言って私は彼の背中をポン、と叩いた。


「実は昔、秘密基地作って作戦会議とかしてた場所があるんですけど、今度時間あったら行ってみてくださいよ」

「え!?そんなのあったの!?あいつ、あたしに内緒で…」


苦笑いする私に、彼はその場所の地図をくれた。



数日後、地図を頼りに彼らの秘密基地を訪れた。



かろうじてまだ空き家だった『秘密基地』であるその場所は、ボロボロになっていたがなんとか中へと入ることができた。


「わぁ…凄いな…」


そこには彼らの信条や、計画書らしき落書きや、懐かしい雑誌などが散乱していた。


「ん?」


古い棚の上に、封筒が無造作に置かれていた。中を見ると、私が昔亡き彼に渡した手紙やメモや、私が書いた彼の似顔絵や、どうでもいいような落書きまで入っていた。


「やだもう…ばか…」


滲む視界にぼんやりと、殴り書きのような一枚の便箋が紛れ込んでいるのが映った。



『死ぬまで愛してる』





泣き崩れた私の脳裏には、スーツ姿で現れた、この場所の地図をくれた人物の一言が蘇った。



『和希さんは最後まで姐さんしか愛してなかったです』



「信じてあげられなくてごめんね」


便箋を胸に抱き、嗚咽が漏れた。



「あたしも愛してるよ、和希」



初恋は叶わないなんて、誰が吹聴したのだろう。私はこんなにも彼に愛されていたんだ。そう実感し、私は日常へと戻って行った。



私は今でも彼の思い出と共に幸せに暮らしている。



二年後、彼と私の思い出を執筆、自費出版した本がベストセラーとなり賞を頂いた。店頭の一番目立つ場所に並べられたそれを恥ずかしげに見つめながら、彼の面影を追っていた。


「少しは貢献したかな?和希」



世の中を変える、とまではいかないが、人の心を動かす、という仕事を得た私は、少しずつ彼の信条を世の中の人々に伝えていく決心をした。




『直木賞受賞!ベストセラー作品《私の愛したテロリスト》』





end.

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