♪ダイヤのA♪

□第3話*お手並み拝見
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沢「すっげーな!降谷の彼女さん!!」

金「はぁ!?美晴さんは降谷の彼女じゃねーよ」

沢「え、そうなのか?でも昨日抱きしめられてたじゃん!」

金「バカか、すぐ先輩たちに取り返されてただろーが。つまり降谷の一方的な、」

降「……僕の彼女」

金「……否定しろよっ」



美晴がマウンドに立ってから少し賑やかになった1年側のベンチ。ほくほくと柔らかなオーラを身に纏って降谷は嬉しそうに沢村の言葉を繰り返した。

そんな中でも試合が進んでいくごとに生まれるのは大差のみ。前の回ではついに降谷がマウンドに立ち、彼の放ったたった一球が流れを変えたのは確かだ。とは言え、そうやすやすと点を取らせてくれるような相手ではなかった。



沢「はっはっは!まだ4回ある!このまま終わってたまるかよ!」



沢村の大声が響いた。次はまた1年の攻撃だ。



沢「突破口は俺が開いてやる!まずは一点返していこうぜ!!」



バットを何度も振り回しながら、ベンチに向かってそう声をかける。沢村の表情はやはり生き生きとしていた。



「(ふふ、やっぱり私、沢村くん大好きかも)」

沢「よろしくお願いします!!」



バッターボックスに立った沢村は美晴と向き合った。バットを構えると力強い目で彼女を見据える。



「そう簡単には打たせないよ、沢村くん」



ふっと笑みを浮かべると美晴も真っ直ぐに沢村を見据えた。

初球、美晴が振りかぶる。その瞬間、彼女から笑みが消えた。宮内がミットを構えたのはインコースだ。



沢「おいさーーーっ!!」

片「ストライク!」



胸元をえぐるような勢いで凄まじく走った美晴の球は、沢村の手元でバットを避けるようにして急激に下降した。

ストレートとはまた違う形で打者を圧倒する威力。沢村のバットは見事に空を切った。

そう、美晴は変化球も多彩なのだ。



1年「……なんだあいつ」

金「何が突破口を開くだ?」

1年「ははっ、口だけじゃねーか」

1年「てか美晴さんスゲー……」

1年「華奢なのに、肩強いんだな」

1年「サウスポーってのもまたスゲェ」

1年「あの球は打てねぇよ」



また1年側のベンチがざわつく。誰もが美晴の球あるいは沢村の空振りに言葉を漏らしていた。だが、



「沢村くん……インコース、怖くないんだ」



美晴の驚きはそこだった。この試合で打席に立った1年はインコースには手も出せず、仰け反るどころか尻餅をつく人も少なくはなかった。だが沢村は恐れることなく思い切り踏み込んでバットを振ったのだ。それこそ、かすりもしなかったが。

宮内と目が合う。彼も美晴同様、驚いたような顔をしていた。

2球目、再びインコースへと球を走らせる。



片「ストライク、ツー!」



またも沢村のバットはかすりもせずに空を切った。だがやはり彼は恐怖などまるで皆無だとでも言うように、思い切り踏み込んできた。先程のバッティングも決して偶然ではなかったのだ。

不意に美晴の顔が綻んだ。球を握る指先に更に熱が集中する。昂ぶる思いが美晴の身体中を駆け巡るようだった。

先程までと違う。自分の球に食らいついてくる相手がいることがこんなにも胸を熱くする。対峙する相手がいてこそ、初めて投球が意味を持つのだ。

3球目、美晴の球は再びインコースを駆け抜けた。また当然のように沢村のバットを避けて。沢村が悔しげに歯を食い縛るのが見えた。

だが、まだだ。



春「まだだ!キャッチャー後ろに逸らしてるぞ!」



美晴の心の声に重なるようにして、ある少年の声がグラウンドに響いた。ハッとした沢村が塁を目掛けて疾走する。




『セーフ!!』




ここで初めて、試合に少しの動きが見られた。





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