アルテア王国物語 第一部

□第六話 エリーとエミリア
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二人は走った。

どこをどう走ったか、エミリアはあまり覚えていない。

角を曲がり、黒服たちの死角に入ったところで茂みに隠れた。

茂みの中から、黒服たちがそのまま通り過ぎていくのが分かった。

「なんで私が巻き込まれなきゃならないわけ?」

エミリアはつぶやく。

はあ、安息の一日がなんでこんなことに‥‥‥。

いや、待てよ、考えれば私は何かをしたわけじゃない。

捕まったところで私がどうにかされる心配は‥‥‥無いわけじゃないな‥‥‥。

もしも、この人が凶悪犯だったら?

チラリとエリーを見る。

逃亡を手伝ったという理由で私も逮捕?

‥‥‥ホントに?

「そういえば、あなたの名前、教えてくれる?」

エリーは言った。

「私はエミリアだけど。

あのさ、逃げるの手伝ってもいいけど、なんで逃げてるのか教えてくれない?

私、犯罪者の手助けだけはしたくないの」

と言ってから、本当に犯罪者だったらどうしよう、とか思ったり。

「‥‥‥エミリアって〈とんちき亭〉の?」

「え、私のこと、知ってるの?」

「やっぱりそうなんだ。〈とんちき亭〉のエミリアちゃんはかわいいって言ってた人がいてたから」

「その人ってどんな人?私の知ってる人?」

「そこまでは知らない。また聞きだし。ま、男の人が言ってたのは確かだよ」

男にモテた経験はないけど‥‥‥。

見も知らぬ男どもが私の噂をしてるってことは‥‥‥。

実は私、結構いけるんではないだろうか?

なーんて思ったりして。

エリーの姿を見てため息が出る。

何と言っても綺麗。

髪が波打って、ふわふわ。

胸も大きいし。

でも、体は細いし。

私はもちろん太ってるわけじゃないけど。

胸は小さいし。

‥‥‥ちゃんとあるけどね。

髪だってそんなに綺麗じゃない。

肌だって特別綺麗なわけじゃない。

はあ、早くお嫁にいきたいのに‥‥‥。

「エミリア、なんか私を見てため息ついてるみたいだけど」

「‥‥‥?」

「私が綺麗だからって落ち込んじゃダメよ」

「‥‥‥」

私もこんなセリフが言えるようになりたいよ‥‥‥。

「ところでさ、あなた、本当になんで追われてるの?教えて欲しいんだけど?」

エミリアは言った。

「それは‥‥‥秘密。

ごめんなさい、エミリア、今はまだ言えない。

でも、これだけは誓うわ。

守るべき法を破ったりはしてないと」

「あっそ。分かったわよ、そこまでいうなら」

エリーの真剣な眼差しに、どうのこうの言うのもどうかなとか思ったり。

「それにね、エミリア、私思うの」

「何よ」

「こんなかわいい顔した犯罪者なんていないよ、絶対」

エリーはニコッと微笑んだ。

‥‥‥だから自分で言うな。

エミリアは思った。
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