アルテア王国物語 第一部

□第六話 エリーとエミリア
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「ところでさ」

エミリアは言った。

「うん?何?」

「逃げるってどこに逃げるの?」

エリーは少し考えてから、

「‥‥‥どこに逃げればいいのかしら?」

「‥‥‥あんた、本当に逃げる気あんの?」

「私、これからどこへ行こうかしら?」

「何にも考えてないわけ?」

「実は‥‥‥会いたい人がいて」

「会いたい人?」

「うん‥‥‥」

「その人のいるところに行けばいいんじゃないの?」

「それが‥‥‥」

「まさか‥‥‥その人のいる場所がわからないの?」

「‥‥‥うん」

「あ、そう」

エミリアは呆れて物も言えない。

どうするべきか‥‥‥。

「どんな人?どこまでできるかわからないけど、探してあげるから」

エミリアは言った。

「剣の扱いがうまい人」

エリーは言った。

エミリアは一度考えてみたが、その筋の人に知り合いない、

というか、誰がうまくて誰が下手かなんかは全くもってわからなかった。

「他は?」

エミリアは尋ねる。

「男の人の中では普通くらいの身長。粗野な所はあるけど、優しくて暖かくて。

最近、ちょっと避けられてたみたいだから、少し会話したいというか、喋りたいというか、

‥‥‥会いたいというか」

「男の人に会いたいわけね。‥‥‥もしかして、彼氏?」

「きゃっ、何言ってんのよ」

と、エミリアの背中を力任せに叩く。

エミリアは思わず倒れそうになった。

「でも、それだけじゃ、わからないんだけど。もっと、なんて言うの、決定的にこの人、ってわかるような‥‥、

そう、名前ね。それと職業とか、よく行動していそうな場所とかは?」

「名前はロイド•ジルベルト」

「‥‥‥え」

「王都警護役の、今は小隊長、だったかな?」

「‥‥‥」

「あ、そういえば、あなたがいる〈とんちき亭〉、ロイドがよく来るそうじゃない」

「‥‥‥来るけど」

「その店に行ったら、会えるかな、ロイドに?」

「‥‥‥毎日来てるわけじゃないから、必ず会えるとは限らないけど」

「そうなんだ‥‥‥」

「あの、一つ聞いていい?」

「何?」

「‥‥‥ロイドとはどういう関係?」

エミリアは生唾を飲み込んだ。

その問いに、エリーはあはは、と笑い出す。

「あなたが心配するような関係じゃないわ、残念ながら」

「‥‥‥そう」

「とりあえず、〈とんちき亭〉に連れて行って。会えないかもしれないけど」

「‥‥‥うん」

エミリアはあまり気乗りしなかったが、ここまできた以上、そう返事するしかなかった。
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